第44話 それでも帰国は保証します
会談室。
静かな空間。
フィーナは姿勢を正し、グレイヴスを見据える。
「この度は、救助いただきありがとうございました」
王女としての礼。
だがそれは形式ではない。
地下で過ごした三日間を思えば、これは事実だ。
グレイヴスは穏やかに頷く。
「当然の対応です」
「人命の保護は、国境に依らず優先されるべきものです」
理屈。
温度はない。
フィーナは続ける。
「私の処遇は、どうなりますか」
率直な問い。
グレイヴスは指を組み、わずかに身体を預ける。
「あなたを拘束する意図はありません」
「折を見て、共和国へ帰還していただきます」
即答。
迷いはない。
フィーナの胸が、わずかに軽くなる。
だが。
続きがある。
「ただし」
穏やかなまま。
「可能であれば、お願いしたいことがあります」
来る。
フィーナは表情を変えない。
「内容をお聞きしても?」
「残響分散型REV」
「エレジア」
その名を正確に発音する。
フィーナの瞳がわずかに揺れる。
「分散構造は理論上優れている」
「単独高接続より精神負荷が低い」
「実戦データも、今回で十分に確認できました」
“確認できました”。
観測していた。
フィーナは理解する。
これは研究協力。
だが同時に、共和国の戦力把握。
「主接続者として、一定期間、連邦で協力していただきたい」
柔らかな声。
だが重い。
フィーナはゆっくり息を吸う。
「拒否すれば?」
グレイヴスは数秒沈黙する。
「あなたの帰国は保証します」
フィーナはその主語を飲み込む。
「しかし、均衡の維持は困難になるでしょう」
微笑んだまま。
脅しではない。
だが、圧力だ。
“我々は状況を把握している”。
フィーナは考える。
カルネアは嫌いだ。
武器を売り、均衡を維持する国。
だが、その中心に立つ人物を知る機会でもある。
エレジアの思想。
分散。
守るための構造。
それを外から見ることは、無意味ではない。
フィーナは頷く。
「分かりました」
静かな決意。
「協力させていただきます」
グレイヴスの微笑みが、わずかに深くなる。
「賢明な判断です」
評価。
温度はない。
フィーナは一瞬、迷う。
それでも言う。
「……ひとつ、お伺いしたいことがあります」
グレイヴスの視線がわずかに細まる。
「どうぞ」
フィーナは言葉を選ぶ。
王女としてではない。
一人の人間として。
「私と一緒に保護された接続者について」
一拍。
「どのような扱いになっていますか」
室内の空気が変わる。
背後の部隊代表がわずかに姿勢を正す。
グレイヴスは微笑みを崩さない。
「彼は、我々にとって極めて貴重な観測対象です」
観測対象。
フィーナの胸がわずかに締まる。
「安全は保証されていますか」
問いは静か。
だが、真剣だ。
グレイヴスは答える。
「生命の維持は保証されています」
言葉は正確。
余計なものは含まない。
フィーナは目を逸らさない。
それが答えだ。
カルネアという国の答え。
会談は続く。




