第43話 ようこそ、連邦へ
発見は偶然だと説明された。
だが窓のない車内で、フィーナはひとつだけ理解する。
偶然なら、彼だけ拘束される理由がない。
崩落地帯の地下研究施設跡を調査中、
微弱なLNS反応を検知。
それがエレジアとオルクスだった。
カルネア連邦の研究部隊。
秘匿指定。
偶然にしては、整いすぎている。
フィーナはそれを理解しきれないまま、ただ状況を受け入れるしかなかった。
⸻
地下道。
装甲車両の中。
拘束はされていない。
両手は自由。
だが窓は閉ざされ、外は見えない。
向かいには無言の連邦兵。
規律は正確。
無駄がない。
車両が一度停止する。
扉の隙間から、別の車両が見える。
レイ。
降ろされる。
両腕に金属の拘束具。
手首を繋ぐ、簡素だが重い輪。
歩幅を制限する程度。
それでも。
はっきりとした“拘束”。
フィーナの喉がわずかに動く。
名前を呼びそうになる。
――レイ。
唇が開く。
だが。
閉じる。
ここで呼べば、何になる?
帝国の兵士。
共和国の王女。
関係は、ない。
それでも。
まだ離れたくなかった。
レイは一度だけこちらを見る。
表情は変わらない。
だが。
視線は、止まる。
連邦兵が間に入る。
遮断。
⸻
フィーナは目の前の男を見る。
部隊を率いていた人物。
冷静な目。
「なぜ、あの方は拘束されているのですか」
声は静か。
だが硬い。
男は即答する。
「識別上の措置です」
感情はない。
「識別?」
「身元確認および、規定に基づく管理措置」
管理。
フィーナは眉を寄せる。
「私はされていません」
男はわずかに目を細める。
「あなたは、保護対象です」
それだけ。
説明は増えない。
フィーナはそれ以上問わない。
問えば、立場が揺らぐ。
王女として。
ここはまだ、冷静でいるべき場所。
だが胸の奥に残る。
あの拘束具の重さ。
⸻
地下道を抜ける。
巨大なゲート。
カルネア連邦区域。
建造物は直線的。
装飾は少ない。
合理性だけが整っている。
フィーナは降車する。
レイも降ろされる。
拘束具はそのまま。
金属が朝光を反射する。
レイは抵抗しない。
ただ歩く。
フィーナの視線が追う。
一瞬だけ、再び視線が交わる。
何も言えない。
呼べない。
連邦兵が二人を分ける。
物理的に。
⸻
フィーナは客室へ通される。
簡素だが上質。
着替えが用意されている。
共和国王女に相応しい衣装。
丁寧。
だが、監視の気配は消えない。
ここは歓迎ではない。
管理。
着替えながら、フィーナは思う。
あの拘束具。
なぜ。
何を恐れているのか。
彼は、ただの兵士ではないのか。
⸻
会談室。
広い。
静か。
フィーナは姿勢を正して座る。
王女として。
扉が開く。
二人の男が入る。
一人は先ほどの部隊代表。
その男が一歩下がる。
後ろに立つ。
もう一人が前へ。
ゆっくりと座る。
視線が合う。
柔らかな微笑み。
だが。
目は冷たい。
深く。
測るような。
「さて」
穏やかな声。
「まずは、はじめましてですね」
間。
「私はグレイヴス・ウィリオ・カルネア」
名乗りは丁寧。
「カルネアの代表を務めております」
「ようこそ、連邦へ」
にこりと微笑む。
だが。
その瞳には、温度がない。
フィーナは目を逸らさない。
王女として。
だが同時に。
今朝、拘束された彼のことが、頭から離れないまま。
国家の時間が、始まる。




