第42話 まだ、出るんだ
共和国軍医療棟。
隔離区画。
エレジア後席ブロックは大破していた。
装甲は裂け、接続ラインは焼け焦げている。
その中から、ユユは回収された。
奇跡的に。
機体が衝撃を受け止めた。
だから生きている。
それだけだ。
⸻
自室。
扉は閉じられている。
窓も閉じられている。
光も少ない。
ユユはベッドに座ったまま、動かない。
コネクションスーツは脱がされている。
だが感覚は残っている。
接続が切れた瞬間。
フィーナの波形が消えた瞬間。
空白。
「……フィーナ」
小さく。
「フィーナ」
返事はない。
当たり前だ。
それでも、呼ぶ。
止められたはずだった。
接続を下げれば。
もっと早く制御を戻せば。
私が、あのとき。
「ごめん」
声が掠れる。
目が熱い。
泣きすぎた。
最初の三日は、ほとんど記憶がない。
泣いて。
吐いて。
震えて。
捜索は続いていると聞いた。
だが。
地下空洞は広大。
崩落も進んでいる。
生存確率は、低い。
「……ごめん」
何度も。
何度も。
フィーナの名を呼ぶ。
止めれなかった。
止めれば助かった。
後悔が波のように押し寄せる。
目が乾く。
もう涙は出ないと思った。
泣きすぎて。
空になったはずだった。
⸻
一週間後。
扉が叩かれる。
侍女の声。
「ユユ様」
ユユは反応しない。
もう何も聞きたくない。
「ご報告がございます」
扉の向こうで、声が震えている。
「……何」
かすれた声。
扉が少し開く。
侍女の目が赤い。
だが。
今度は、違う色だ。
「カルネア交易連邦より正式通達がありました」
ユユの指が、わずかに動く。
「フィーネリア・ルミナリア姫を保護している、と」
時間が止まる。
意味が、すぐに理解できない。
「……え?」
「姫様は生存。負傷軽微。現在、連邦管理下にて保護」
言葉が届く。
一気に。
胸に。
空になったはずの場所に。
何かが流れ込む。
「……うそ」
立ち上がる。
足が震える。
「本当です」
侍女の声が崩れる。
「姫様は、生きておられます」
ユユの視界が滲む。
あれだけ泣いたのに。
もう出ないと思ったのに。
熱い。
「……よかった」
声にならない。
膝が折れる。
床に崩れ落ちる。
涙が落ちる。
止まらない。
「まだ、出るんだ」
自分で驚く。
泣ける。
まだ。
フィーナは生きている。
カルネアがなぜか。
どういう状況か。
そんなことはどうでもいい。
ただ。
生きている。
それだけでいい。
ユユは顔を上げる。
目は赤い。
だが。
芯が戻っている。
「連邦への渡航準備を」
侍女が目を見開く。
「お一人で?」
ユユは頷く。
「私が行く」
フィーナの背中を守ると決めた。
なら。
今度は、隣に立つ番だ。
ユユは立ち上がる。
涙の跡は残ったまま。
でも。
足は止まらない。
カルネアヘ。




