第4話 子守唄にすらなりゃしない
出撃前ブリーフィング。
帝国第8機動部隊格納庫。
整備用アームが機体外装を叩く金属音の中、部隊長が淡々と告げる。
「敵は共和国機動兵器REV。神経同調型だ」
モニターに映る人型機。
帝国のGRASPと酷似している。
だが外装は滑らかで、どこか生々しい。
「接続者が乗っている。こっちと同じだ」
隊員の一人が鼻で笑う。
「猿真似だろ」
部隊長は否定しない。
「構造は近い。油断するな」
視線が二機に向く。
GRASP-03。識別名ガンズ。
「接続値は通常5%。上げても10%までだ」
一拍。
「上限は20%。だが推奨はしない」
20%。
理論値。
それ以上は、精神が先に削れる。
ルクは何も言わない。
レイも同じだった。
⸻
荒野。
REV部隊視認。
戦闘開始。
最初に仕掛けたのは第8の一機だった。
発砲。
命中。
REVが崩れ、爆散する。
その瞬間。
頭の奥を掠める感覚。
残響。
恐怖。
否定。
断片。
「……来たな」
誰かが呟く。
だが動きは乱れない。
第8は残響に慣れている。
5%接続でも撃墜の情報は拾う。
それは音ではない。
死の瞬間の情報。
脳が補完し、悲鳴という形を与える。
処理できる。
まだ、処理できる。
⸻
ルクのガンズ。
接続値表示――20%。
上限。
世界が静まる。
機体の追従が変わる。
思考より速い。
踏み込み。
回避。
射撃。
REV一機、沈む。
残響。
今度は濃い。
複数の感情が重なる。
20%なら、本来は視界がざらつく。
思考にノイズが混じる。
撃墜の断片が尾を引く。
だが。
「こんなもんか」
ルクは静かだった。
レイも20%。
撃墜。
残響。
「薄いな」
二人にとって、それは重みを持たなかった。
⸻
その時。
「くそっ、持っていかれる!」
若い隊員の叫び。
REVが僚機を撃ち抜く。
爆散。
味方の残響が走る。
短い。
強くはない。
だが確かに胸を掠める。
若い隊員の視線がルクに向く。
20%。
平然。
壊れない。
「……俺がやらなきゃ」
接続値を上げる。
7%。
10%。
機体が軽くなる。
視界が冴える。
「いけるぞ……!」
REVへ突撃。
撃墜。
残響。
濃くなる。
だが止めない。
12%。
15%。
警告表示。
「やめろ、下げろ!」
隊長の声。
「はっ!戦果を上げればいいんだろ!」
焦り。
焦燥。
恐怖を押し潰すための加速。
18%。
もう一機。
撃墜。
残響が重なる。
敵の恐怖。
味方の断末魔。
さっきの撃墜。
今の撃墜。
情報が混線する。
20%。
表示が赤く染まる。
視界が揺れる。
「うるさい」
さらに狙う。
引き金。
三機目。
撃破。
その瞬間。
残響が爆ぜた。
増幅。
増幅。
増幅。
“死にたくない”
“助けて”
“まだ”
「やめろ」
誰の声か分からない。
敵か。
味方か。
自分か。
絶叫が頭蓋の内側で反響する。
「うるさいうるさいうるさい!!」
機体が乱れる。
無意味な発砲。
味方が回避する。
「遮断しろ!」
強制接続解除。
ガンズが膝をつく。
コックピット。
若い接続者は笑っていた。
涙を流しながら。
「聞こえる……全部……」
壊れた。
⸻
戦闘は続く。
ルクが一機。
レイが一機。
淡々と落とす。
残りのREVが沈む。
終わり。
荒野に風だけが残る。
⸻
帰投。
医療班が崩壊した接続者を運ぶ。
第8は沈黙している。
誰も残響を否定しない。
慣れている。
だが、限界は知っている。
部隊長が言う。
「お前たち、20%だな」
否定しない。
レイが静かに返す。
「接続値が高いほど、機体は動く」
ルクが続ける。
「でも、足りない」
空気が凍る。
「おい……20%で、あれなんだぞ……」
隊員の声は震えている。
ルクはわずかに眉を動かす。
怒りではない。
ただの事実確認。
「だから何だ」
視線が揺れない。
「子守唄にすらなりゃしない」
レイは何も言わない。
だが視線は同じ方向を向いている。
第8は理解する。
こいつらは強い。
だがそれ以上に。
壊れない。
それが一番、異常だった。




