表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/90

第38話 あなたが人間だったから

地下空洞は広い。


だが、出口は見えない。


二人は距離を保ったまま歩いている。


並ばない。

背中も見せない。


戦場の音は、もう届かない。



水音。


細い地下水脈が岩肌を伝う。


フィーナはしゃがみ、指先で触れる。


冷たい。


「……よかった、生きてる」


小さく呟く。


レイは水面を見る。


揺れている。


映るのは、自分と白いスーツ。


「……うるさい」


フィーナが振り向く。


「また?」


レイはこめかみに触れる。


「消えない」


「戦闘中より、濃いな」


その言葉に、フィーナの胸がわずかに跳ねる。


50%。


あの出力で動いていた男が。


残響を、うるさいと言った。


驚き。


そして。


ほっとする。


「……そっか」


それだけ返す。


大げさにしない。


でも声は、少し柔らかい。


「残響は、うるさいよ」


レイは何も言わない。


フィーナは立ち上がる。


「戦ってるときは外に向いてる」


「止まると、自分に返ってくる」


レイは理解しきれない顔をする。


フィーナは少し困ったように笑う。


「うまく言えないけど」


「私たち接続者はそれが、普通だよ」


普通。


その言葉が、静かに落ちる。


レイは目を伏せる。



奥へ進む。


裂け目は狭い。


抜け道はまだ見つからない。


「……三日」


レイが言う。


「水だけなら三日持つ」


フィーナは横目で見る。


「計算?」


「習慣だ」


淡々。


フィーナは少し笑う。


「まるで機械だね」


レイは否定しない。



僅かに月光が差す空間。


二人は距離を取って座る。


沈黙。


フィーナが先に口を開く。


「あなた、うるさいって言ったよね」


レイは間を置いて返す。


「...壊れる気がする」


「今までの俺が」


フィーナは少し考える。


すぐに否定しない。


説教もしない。


「壊れないよ」


静かに言う。


「きっと変わるだけ」


レイは黙る。


フィーナは続ける。


「変わるの、怖いよね」


「私も怖い」


月光が揺れる。


「でもね」


フィーナはレイを見る。


「あなたが壊れそうなら」


一拍。


「私が止める」


強くはない。


でも真っ直ぐ。


レイは目を上げる。


「なぜ」


フィーナは少しだけ困った顔をする。


「分かんない」


正直に言う。


「でも」


「あなたがうるさいって言ったとき」


ほんの少し、笑う。


「安心した」


レイの瞳が揺れる。


「あなたが人間だったから」


それだけ。


助けたい、と言わない。


守る、とも言わない。


ただ、隣に立つ前提で話す。


レイは何も言えない。


残響は消えない。


でも。


さっきより、少しだけ、痛みが薄い。


夜は深まる。


距離はまだある。


だが。


確実に縮み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ