第36話 夜に消える
地面が、鳴っている。
エレジア前席。
フィーナは歯を食いしばる。
「青鬼……!」
オルクス。
波形表示。
50%。
「50%……!?」
後席のユユが息を呑む。
「嘘でしょ……あり得ない……人間域じゃない……!」
それでも。
青鬼は決めきれない。
踏み込みは速い。
反応は鋭い。
なのに。
ほんの一拍、遅れる。
「迷ってる……?」
フィーナは刃を受け流しながら叫ぶ。
「ユユ、周囲!」
「地盤が不安定! 地下に巨大空洞反応!」
低い軋み。
地下支柱の応力警告。
二機の衝突が振動を増幅させる。
だが、退けない。
味方REVが背後にいる。
「私が抑える!」
二刀を構える。
青鬼が踏み込む。
衝撃。
出力差は明確。
押し込まれる。
主接続25%。
負荷が増す。
ユユが叫ぶ。
「右脚制御にラグ!」
「分かってる!」
受ける。
弾く。
滑らせる。
守る動き。
青鬼の刃が走る。
エレジア前部装甲を裂く。
さらに一閃。
コックピット前部外装に深く食い込む。
《装甲破断》
衝撃。
内部フレームへ振動が伝播。
分散波形が乱れる。
「ユユ!」
後席の呼吸が荒い。
「大丈夫……!」
震えている。
それでも副接続は維持。
フィーナが踏み込む。
振動刃を絡める。
その瞬間。
青鬼の刃が横薙ぎに払われる。
境界フレームへ直撃。
爆ぜる火花。
警告が赤に染まる。
《後席接続ライン断裂》
「嘘……!」
ノイズ。
一瞬の静寂。
「……フィーナ!」
声は届く。
だが物理ラインは断たれた。
副接続10%が消える。
――否。
LNSが自動補正を開始。
《負荷維持のため主系統へ統合》
波形が跳ね上がる。
35%。
単独。
強制的に。
フィーナの視界が白む。
胸が締め付けられる。
呼吸が乱れる。
「戻って!」
ユユの声。
遠い。
「接続を下げて!」
下げられない。
今下げれば、押し切られる。
35%。
人間域を越えた負荷。
涙が滲む。
それでも、踏み込む。
今なら。
守るためではない。
決めるための一歩。
二刀が交差。
白い刃がオルクスの右腕を捉える。
装甲を裂く。
火花。
その瞬間。
地下から、破断音。
巨大支柱が折れる音。
地盤が限界を超える。
大地が沈む。
亀裂が爆ぜる。
空洞が露出する。
足元が崩れる。
「フィーナ!」
「ユユ!」
互いの名を叫ぶ。
だが届かない。
分断された通信。
滑走路が消える。
エレジアとオルクスが、同時に落ちる。
崩落。
粉塵。
暗転。
⸻
静寂。
フィーナは目を開ける。
エレジアは横倒し。
前席のみが生きている。
後席区画は崩落上部に残されたまま。
「……ユユ?」
応答はない。
通信不能。
地上は遥か上。
巨大な地下空洞。
冷たい空気。
向こう側。
青い機体が倒れている。
ハッチが、ゆっくり開く。
フィーナも前席ハッチを押し上げる。
夜気が流れ込む。
白いスーツ。
対岸に、青いスーツ。
互いに立つ。
数歩。
止まる。
レイの声が、静かに落ちる。
「……白百合」
フィーナは息を整え、言う。
「あなたが……青鬼」
帝国も共和国も届かない場所。
二人だけ。
夜に消えた。




