第32話 大丈夫、一人じゃない
夜。
平原。
帝国第零機動隊が楔のように突き進む。
黒い機影が滑走し、共和国の前衛を切り裂く。
黒槍が振るわれる。
REVが弾かれ、倒れ、炎が上がる。
通信が錯綜する。
「左翼崩れる!」
「後退線維持!」
「黒槍を止めろ!」
白が前に出る。
REV-IV。
白い装甲が月光を反射する。
フィーナの声が戦域通信に響く。
「黒槍は私達が抑える!」
短く、強い。
共和国部隊がその声に従う。
「隊長、単独は――」
「大丈夫、独りじゃない」
フィーナはユユと目を合わせる。
「他をお願い」
エレジアが加速する。
主接続25%。
副接続5%。
合計30%。
後席。
ユユの呼吸が浅い。
「来る……!」
前席。
フィーナの視線は一点。
黒き槍。
GRASP-05《ルーヴ》。
ネストもまた、白を見ている。
二機が一直線に近づく。
間合い。
黒槍が先に伸びる。
鋭い突き。
エレジアが滑るように躱す。
白い振動刃が弧を描く。
衝突。
火花。
衝撃がコックピットを揺らす。
ユユの身体が後席で揺れる。
残響。
敵の叫び。
味方の断末。
戦場全体のノイズ。
だが今は遠い。
目の前にいるのは一機だけ。
ネストの声が短く入る。
「白百合だな」
フィーナは応えない。
再び衝突。
黒槍の連続突き。
無駄がない。
間合い管理が正確。
18%。
ルーヴの挙動が一段鋭い。
エレジアが受ける。
流す。
踏み込む。
二刀が交差する。
ネストの瞳が細まる。
「いい反応だ」
フィーナの返答は刃で返る。
斬撃。
ルーヴの肩を掠める。
わずかな損傷。
ネストは後退せず、逆に踏み込む。
黒槍が地面を削り、横薙ぎ。
エレジアが跳ねるように退く。
副接続波形が揺れる。
後席。
ユユの指が握りしめられる。
「……重い」
「大丈夫」
前席からフィーナの声。
「一緒にいる」
黒槍が再び迫る。
今度は低い。
地面すれすれ。
突き上げ。
エレジアが受け止める。
衝撃。
振動が全身を貫く。
残響が弾ける。
恐怖。
怒号。
失われた未来。
フィーナの呼吸が乱れる。
ネストはそれを感じ取る。
揺れ。
だが、崩れない。
黒槍が引かれる。
次の一手。
フェイント。
高速の刺突。
エレジアが刃を重ねる。
鍔迫り合い。
コックピット越し。
ネストが低く言う。
「人間だな」
フィーナが初めて返す。
「ええ」
刃が押し合う。
18%対30%。
単独高接続と分散接続。
黒は一点に集中する。
白は揺れを分け合う。
ネストが力を込める。
黒槍が押し込む。
エレジアの足が地面を削る。
後席。
ユユの視界が滲む。
涙。
だが接続は切らない。
フィーナが歯を食いしばる。
「まだ……!」
白い刃が弾く。
黒槍が一瞬逸れる。
エレジアが踏み込む。
二刀同時斬撃。
ルーヴが後退。
装甲が裂ける。
わずかな破損。
ネストの波形が揺れる。
18%。
限界ではない。
だが、楽でもない。
二機が距離を取る。
呼吸。
戦場の音が戻る。
遠くでREVが爆ぜる。
GRASPが倒れる。
だがここだけ、静かだ。
ネストが呟く。
「強いな」
フィーナが答える。
「逃げない」
月光の下。
黒と白が再び構える。
戦場はまだ終わらない。
決着も、まだ。
二機が同時に踏み込む。




