第30話 もう少し先へ
帝国第零機動隊
戦術ブリーフィング室。
照明は落とされ、正面の大型投影だけが明るい。
数名の隊員が無言で立っている。
中央に、ネスト・アーヴィン。
腕を組み、視線は前。
映像が再生される。
共和国西部戦線。
夜。
白い機体が滑走する。
REV-IV。
「共和国、新型機体確認」
副官が淡々と報告する。
「推定接続率、最大35%」
室内がわずかにざわつく。
「35%だと?」
「人間の値じゃない」
「帝国のDCと同等か、それ以上か」
映像の中で白が斬る。
速い。
だが無駄な加速はない。
一機を仕留める。
わずかな間。
次の選択。
一瞬の遅延。
それでも崩れない。
隊員の一人が呟く。
「本当に人間か?」
沈黙。
ネストは映像から目を離さない。
白が被弾を受け止める。
守る動き。
撃てる場面で撃たない瞬間。
そして再加速。
ネストが口を開く。
「白百合だ」
短い断定。
「え?」
副官が振り向く。
「パールメイルか?」
「機体は違う」
「だが動きは同じだ」
映像がスロー再生される。
微細な揺れ。
進むか、退くかの迷い。
一拍の呼吸。
それでも立つ。
ネストは言う。
「白百合は人間だ」
静かな声。
「接続率ではない」
「揺れで分かる」
室内が静まる。
誰も反論しない。
映像が止まる。
白い機体が画面に残る。
副官が問う。
「対処方針は?」
ネストは数秒考える。
「正面からやる」
「迂回も包囲も不要だ」
「正面から潰せばいい」
それが礼儀だと言わんばかりに。
ブリーフィング終了。
隊員が散る。
⸻
格納区画。
GRASP-05《ルーヴ》。
黒灰色の装甲。
背部の黒槍が鈍く光る。
ネストは機体を見上げる。
接続率15%。
それが自分の安定値。
だが。
白百合は35%。
揺れながら立つ。
ネストは小さく息を吐く。
「……人間、か」
その声に感情はない。
ただ、確認。
一歩近づく。
装甲に触れる。
冷たい。
「もう少し先へ」
一瞬、目を閉じる。
「行ってみるか」
接続率を上げるとは言わない。
越えるとも言わない。
だが。
黒槍は、静かに待っている。
帝国の夜は深い。
そして。
揺れる人間たちが、確実に前へ進んでいる。




