第29話 精神鍛錬
共和国軍
REV開発区画。
訓練室。
ユユは端末を睨んでいる。
接続シミュレーション。
副接続10%。
振幅データを確認。
「……もう一回」
再実行。
「ユユ」
振り向かない。
「あと三回」
「ダメ」
端末が奪われる。
顔を上げる。
軍服姿のフィーナ。
「今日は終わり」
「でも――」
「終わり」
言い切る。
ユユは唇を噛む。
「次の実戦までに慣れないと」
「慣れる必要なんてない」
フィーナは手を引く。
「ほら着替えて、行くよ!」
⸻
王都。
映画館。
暗い館内。
ホラー映画。
静寂。
画面の中で扉が軋む。
ユユが身構える。
突然の大音量。
「きゃあっ!」
フィーナが先に叫ぶ。
ユユが一瞬遅れて叫ぶ。
二人して顔を見合わせる。
「今のは卑怯だよ」
「だね」
真顔。
次の場面。
今度はユユが先に叫ぶ。
フィーナが笑う。
「残響より怖い?」
「全っ然違う!」
でも、笑っている。
⸻
遊園地。
絶叫マシン。
白いスカートが風に揺れる。
安全バーが下がる。
発進。
急上昇。
落下。
「やめてえええ!」
ユユが叫ぶ。
フィーナも叫ぶ。
風で声が散る。
地面に戻る。
二人とも膝が笑っている。
「なんでこんなの乗るの」
ユユが言う。
フィーナは涼しい顔を装う。
「精神鍛錬」
「は?」
「怖いものに慣れる」
真面目な顔。
ユユが吹き出す。
「嘘でしょ」
「……ちょっとだけ、本気」
二人で笑う。
⸻
お化け屋敷。
暗闇。
足音。
突然、白い影。
「わあああ!」
今度はユユがフィーナの腕を掴む。
フィーナも驚く。
出口。
光。
二人とも息が荒い。
「意味あるの、これ」
「分かんない」
でも。
肩の力が抜けている。
⸻
夜。
小さな食堂。
温かいスープ。
湯気。
ユユがスプーンを持つ。
「……遊んでる時間なんてないのに」
ぽつり。
フィーナがスープをすくう。
「最初はね」
「うん?」
「本気で鍛えるつもりだった」
「ホラー映画も絶叫も」
「怖さに慣れれば、残響も平気になるかなって」
ユユが目を丸くする。
「バカでしょ」
フィーナは少し笑う。
「うん」
「全然違った」
スプーンを置く。
「残響は、怖いじゃない」
「重くて、悲しい」
静かな声。
ユユが言う。
「……今日のは?」
「楽しかった」
即答。
ユユが笑う。
その笑いは、柔らかい。
「フィーナって、ほんと変だよ」
「よく言われる」
二人で笑う。
店の外。
夜風。
戦争は終わっていない。
でも今。
二人は17歳だ。
ユユが言う。
「明日も訓練する」
「でも今日は、もうしない」
「だって疲れちゃったし」
フィーナが頷く。
「うん、それでいい」
街灯の下。
二人の影が並ぶ。
戦う理由。
守る理由。
そして。
叫ぶ理由。
それは、少しだけ似ていた。




