第27話 置いていくなよ
帝国GRASP特別開発区画。
巨大な整備床。
隔壁が開く。
赤と青。
GRASP-α《アストラ》。
深紅の装甲。刃のような輪郭。
GRASP-β《オルクス》。
濃紺の外装。長距離支援装備を備える。
整備士が工具を肩に担ぐ。
「出せるぞ」
ルクが赤い機体を見上げる。
「ようやく本命か」
低く笑う。
レイは青い機体の出力表示を確認している。
アインスが言う。
「接続値上限50%」
整備士が冗談めかす。
「50%なんてなぁ」
「ほんとに人間かい、あんたら」
ルクは振り返る。
「最初から言ってるだろ」
「俺らは兵器だ」
軽い声。
レイは何も言わない。
50%の表示だけを見つめる。
⸻
出撃。
夜の戦域。
共和国前線。
アストラが地を蹴る。
脚部ブースターが唸り、
砂煙を巻き上げながら滑走。
接続値――40%。
間合いが一瞬で消える。
斬撃。
装甲が裂ける。
残響が弾ける。
怒り。
恐怖。
未練。
ルクが息を吐く。
「重いな」
だが止まらない。
45%。
推進力が跳ね上がる。
地面を削りながら突進。
「レイ、左三機」
「了解」
オルクスが滑走しつつ射撃。
精密。
一機。
二機。
三機。
接続値――35%。
40%。
残響が濃くなる。
“やめて”
“帰りたい”
“まだ”
波形が微細に揺れる。
だが照準は外れない。
アストラ、50%。
踏み込み。
地面が抉れる。
振動刃が閃く。
共和国機が崩れる。
ルクが短く笑う。
「いい出力だ」
その声に高揚が混じる。
オルクスも引き上げる。
45%。
視界が拡張。
残響が重なる。
“助けて”
“違う”
“痛い”
撃つ。
戦闘終了。
共和国部隊壊滅。
⸻
帰投。
荒れた地表を滑走する二機。
脚部の摩擦音が夜に響く。
ルクが言う。
「仕上がってんな」
少し間。
「50%も、案外静かだ」
レイは答える。
「……ああ」
声は変わらない。
だが。
残響が消えない。
フィーナの声が重なる。
“あなたはこの声に何を感じるの”
視界が滲む。
理解が遅れる。
頬に冷たい感触。
涙。
初めて。
レイは素早く拭う。
視線を落とさないまま。
隣でアストラが滑走している。
ルクは気づいている。
応答のわずかな遅れ。
波形の乱れ。
拭う動作。
だが言わない。
代わりに軽く言う。
「レイ」
「……なんだ」
「置いてくなよ」
冗談めいた声。
レイは一瞬だけ遅れて答える。
「……置いていかない」
ルクは前を見る。
ほんの一瞬だけ、
寂しそうな表情。
すぐ消す。
「ならいい」
赤と青。
地を削りながら進む二機。
50%に届く兵器。
だが。
その青い機体の中で、
何かが確実に変わり始めていた。




