第26話 100%は終点だ
カルネア交易連邦
中央監査観測局。
巨大な半球型ホール。
天井一面に浮かぶ波形。
赤。
青。
白。
帝国側、LNS高次同期ログ。
共和国側、LNS分散運用ログ。
黒い制服の監査官たちが無言で見上げている。
若い分析官が報告する。
「帝国、新型機にて接続値50%設計確認」
「共和国、新型機にて35%分散構造を採用」
「理論曲線、更新を提案します」
最上席の男が静かに言う。
「不要だ」
視線はスクリーンから動かない。
「想定範囲内」
画面が切り替わる。
LNS理論閾値。
15% —— 危険域
30% —— 深層反応域
50% —— 高次同期域
100% —— 同化現象
若い分析官が口を開く。
「100%到達時の影響について、再確認を」
男は淡々と答える。
「LNSは制御装置ではない」
「選別装置だ」
静寂。
「接続可能な個体を限定し」
「精神強度を測定し」
「戦争の進行速度を適正化する」
スクリーンに帝国50%の波形。
安定。
共和国35%。
分散安定。
「両国はLNSを利用しているつもりだ」
「だが実際は、LNSが彼らを利用している」
若い分析官が問う。
「100%に到達した場合は」
男は一瞬だけ目を細める。
波形が急上昇する。
100%。
「精神完全同化」
「接続者と機体の境界消失」
「自己と兵器の区別が消える」
沈黙。
「それは兵器か」
誰も答えない。
「到達すれば、戦争は終わる可能性がある」
一拍。
「一方的に」
冷たい声。
「ただし」
「人間が残っていれば、だが」
空気が凍る。
別の監査官が確認する。
「帝国DC1st、到達可能性は」
スクリーンに二つの波形。
適合率、上昇中。
「統計上、有望」
男は頷く。
「観測を継続」
「介入は不要」
若い分析官が、ためらいながら言う。
「……DC2ndプランの進捗は」
空気が変わる。
男は即座に答える。
「基礎適性体は確保済み」
「LNS深層適合率、理論上100%到達可能」
沈黙。
「ただし」
別の監査官が補足する。
「人格形成段階」
スクリーンに新しい表示。
DC1st
適合率:上昇中
その下。
DC2nd
適合率:100%理論値到達可能
LNSロック:20%固定
状態:育成中
若い分析官が戸惑う。
「100%可能個体を、なぜ20%に固定するのですか」
男は一切の感情を乗せず答える。
「必要だからだ」
「100%は終点だ」
「終点は、管理できない」
一拍。
「戦争が終わる」
沈黙。
「終わらせてはならない」
言い切る。
巨大スクリーンに、50%、35%、そして100%が並ぶ。
その横で、小さく固定された数値。
20%。
ロック状態。
男が最後に言う。
「DC2ndは保険だ」
「1stが到達しすぎた場合の」
照明が落ちる。
闇の中で、100%の数値だけが光る。
その隣で。
20%に固定された波形が、静かに脈打っている。
観測は続く。
人間が兵器になる瞬間を。
兵器が人間を超える瞬間を。
そして、
それを止めるための存在を。




