第22話 決めろ
地下格納区画。
赤いブレイバーが発進する。
「先に行ってるぜ」
ルクの声は軽い。
青いブレイバーは整備台の上。
脚部制御系、最終調整中。
レイは機体の前に立っている。
整備士が端末を操作する。
「待っとけ、もう少しで終わる」
レイは頷く。
その時。
医療搬送ドローンが横を通る。
担架。
帝国兵。
包帯が巻かれ、血が滲んでいる。
浅い呼吸。
かすかな震え。
レイの視界が止まる。
――焦げる匂い。
残響。
“撤退できたはずだ”
“まだ動ける”
“すまない”
担架の兵の唇がわずかに動く。
声は聞こえない。
だが。
残響と、同じ形をしている。
違う。
同じ。
処理が追いつかない。
レイの指がわずかに強張る。
「見るのは初めてか」
背後から声。
ネスト。
レイは振り向かない。
「残響だ」
即答。
ネストは担架を見たまま言う。
「違う」
レイの視線が揺れる。
「LNSが拾う断絶情報と同質だ」
理論で押さえ込む。
ネストは静かに続ける。
「LNSが拾うのは、終わった瞬間だ」
担架の兵の胸が上下する。
「これは終わっていない」
一拍。
「まだ、生きている」
レイの呼吸がわずかに乱れる。
“助けて”
“帰りたい”
それは断絶ではない。
継続。
途切れていない。
ネストはレイを見る。
「お前たちは残響を音として処理する」
レイは言い返す。
「音だ」
「違う」
ネストが一歩近づく。
「お前は揺れている」
「揺れていない」
「嘘だな」
静かな断定。
空気が張り詰める。
ネストが口を開く。
「兵器は揺れない」
「揺れるなら――」
その瞬間。
整備士の声。
「レイ! 調整完了だ!」
機体の起動音が鳴る。
青いブレイバーのフレームが微振動する。
警告灯が消える。
緊張が切れる。
ネストの言葉は途切れる。
レイは振り向く。
整備士が親指を立てる。
「いつでも出せる!」
沈黙。
ネストは視線を逸らす。
言い切らない。
言わせない。
レイが問い返す。
「揺れるなら、何だ」
ネストは答えない。
数秒の間。
そして、背を向ける。
「決めろ」
それだけ。
黒槍の影が遠ざかる。
レイは一人、青い機体の前に立つ。
装甲に触れる。
冷たい。
静か。
音はない。
残響もない。
だが。
胸の奥が、微かに動く。
“あなたはこの声に何を感じるの”
答えはまだ、出ていない。
出撃警報が鳴る。
レイはコックピットへ向かう。
ネストの言葉は、
最後まで言い切られなかった。
だが。
その先を、
レイはもう、知っている気がした。




