第2話 ちゃんと来いよ
輸送区画は広い。
かつて、ここには百の接続台があった。
今は二つだけ。
壁面に、過去ログが流れる。
被験体総数:100
残数:2
89はその数字を見ている。
「……98」
88は壁にもたれている。
「多かったな」
軽い声。
「最初から、こうなると分かっていたのか」
89の問い。
88は少し考える。
「まあな」
迷いがない。
「どうして」
「俺がいて、お前がいたから」
89は眉を寄せる。
「理屈になっていない」
88は笑う。
「足りてるだろ? 俺たちで」
それだけだ。
89は視線を落とす。
自分が消える未来を、88は一度も想定していない。
それが当然のように。
扉が開く。
研究主任が入る。
無機質な声。
「出荷処理を開始する」
モニターに新しい表示。
個体番号 88
個体番号 89
「帝国軍正式編入に伴い、識別名を付与する」
一瞬だけ、空気が変わる。
番号ではなくなる。
それは“個”の証明ではない。
管理上の便宜だ。
「88」
「識別名――ルク」
89はその音を聞く。
ルク。
番号ではない音。
88は小さく息を吐く。
「悪くないな」
次。
「89」
「識別名――レイ」
その音が、胸に落ちる。
レイ。
自分を呼ぶ響き。
数字より軽い。
だが、逃げ場はない。
主任が続ける。
「貴様らは兵器である」
「戦果をあげ続けろ。以上だ」
肯定も否定もない。
当然の事実。
ルクが横を見る。
「レイ」
初めて、番号ではない呼び方。
レイは一瞬だけ視線を揺らす。
「何だ、ルク」
名前で返す。
少しだけ間がある。
ぎこちない。
でも、悪くない。
ルクは笑う。
「ちゃんと来いよ」
「どこへ」
「俺の隣」
出荷アラートが鳴る。
輸送ハッチが開く。
遠くに帝国の旗。
戦場へ向かう通路。
レイは小さく息を吐く。
一歩踏み出す。
「誤差はない」
それが答え。
ルクは頷く。
百体の実験体は消えた。
灰色の番号はもう存在しない。
残ったのは、
ルクとレイ。
二体の兵器。
並んで、帝国へ投入される。




