第19話 一緒に抱えられるように
共和国軍
REV開発区画。
深夜。
格納庫とは別の、半地下の整備棟。
工具の音が低く反響する。
REV-IIの分解フレームが並び、内部構造が剥き出しになっている。
ユユは端末を持ったまま立っている。
空間に投影されたのは、赤鬼と青鬼の戦闘ログ。
接続値 30% 継続安定。
異常値。
「……こんなの」
小さく零す。
隣で整備主任が腕を組む。
「例の帝国機か」
「はい」
ユユは波形を拡大する。
微細な揺らぎ。
だが崩壊はない。
「通常、人間は20%で限界です」
「いや、本来は20%でも異常値。常人なら10%が限度」
指先が止まる。
「接続値30%は……」
言葉を選ぶ。
「人が壊れる前提の接続です」
主任は低く言う。
「帝国はそこまでやるか」
「やるでしょうね」
淡々と。
「きっと設計思想が違う」
波形を閉じる。
代わりに未着手の設計図を開く。
REV-Ⅳ。
設計番号だけが表示された、空白のフレーム。
主任が目を細める。
「新型か?」
ユユは頷く。
「フィーナは止まりません」
断言。
「止まらないなら」
深く息を吸う。
「せめて、フィーナを守るREVを作る」
主任は何も言わない。
ユユは設計図を拡大する。
「残響は消せない」
「消したら、フィーナは拒む」
「だから、分散する」
指が動く。
新しいラインが引かれる。
「拡散制御型神経補助フレーム」
「高接続値対応、精神負荷緩衝構造」
声は冷静。
だがわずかに震えている。
「接続値を上げても、壊れないようにする」
主任が小さく笑う。
「専用機か」
「ええ」
主任は図面を覗き込む。
「しかし、コックピットが広いな」
ユユは一瞬だけ迷う。
そして、決める。
「拡散した残響は、誰かが受けなきゃいけない」
「接続者は、もう一人必要です」
沈黙。
主任の視線が上がる。
「もう一人の候補はあるのか?」
間。
ユユは主任の目を見る。
逃げない。
「……私が乗ります」
工具の音が止まる。
「技術士だぞ、お前は」
「知ってます」
即答。
「でも、設計した人間が乗らないと、意味がない」
視線を図面に戻す。
「撃った声も、撃たれた声も」
「一緒に抱えられるように」
「REV-IV...《エレジア》」
「哀歌か」
「ええ」
ユユは静かに言う。
「帝国は兵器を完成させようとしている」
主任の言葉。
ユユは視線を上げる。
「うちは人間を守りますよ」
それだけ。
フィーナが止まらないなら。
揺れても立つなら。
折れないようにするのは、自分の役目だ。
画面に浮かぶ、白い機体の輪郭。
まだ線だけの未来。
だが確かに形を持ちはじめている。
工具の音が再び響く。
REV-IV。
それは、戦うための機体ではない。
守るための機体だった。




