第13話 ただの音だ
西方戦域。
帝国第3機動中隊、後退中。
「左翼崩れた! REV三機、距離詰めてくる!」
GRASP-03《ガンズ》の連射銃が弾幕を張る。
だが抜かれる。
共和国REV-II。
単発式長銃。
正確。
一機、撃墜。
残響が頭を掠める。
若い接続者が叫ぶ。
「接続値、上げます!」
「やめろ、5%でいい!」
それでも上げる。
10%。
12%。
ガンズが軽くなる。
だが視界が揺れる。
次の瞬間。
胸部装甲を貫通。
撃墜。
通信が途切れる。
残響。
短い。
“嫌だ”
それが最後。
「くそ……!」
そのとき。
上空に帝国識別信号。
二機。
赤と青。
「……どこの部隊だ!?」
味方信号。
だが見たことがない。
GRASP-06 識別。
赤い機体。
青い機体。
接続値表示――30%。
異常域。
赤が先に落ちる。
滑走。
踏み込みが違う。
弾幕を置き去りにする速度。
振動切断刀。
一閃。
REVの肩部を断つ。
回転。
二撃目で胸部を裂く。
撃墜。
青は距離を保つ。
短銃三連射。
正確。
脚部関節。
REVが崩れる。
そこへ赤が入る。
止め。
二機目、沈黙。
「なんだよ……あの速さ」
帝国兵は撃つことを忘れる。
REV部隊が隊形を組み直す。
単発式長銃の一斉射。
赤が跳ぶ。
弾丸が空を裂く。
青が横滑り。
振動刀を受け流し、返す。
撃墜。
残り一機。
赤と青が同時に踏み込む。
刃と銃声。
同時。
沈黙。
三十秒。
戦場が止まる。
「……何だ、あれは」
味方のはずなのに、異物。
赤と青は振り返らない。
次の戦線へ向かう。
⸻
帰投。
実験部隊整備区画。
ルクがハッチを開ける。
「前よりは濃いな」
軽い声。
レイは降りる。
無言。
接続値30%。
通常の接続者なら危険域。
だが二人は安定している。
アインスが遠くで満足げに言う。
「うんうん、実戦データもいい感じ」
レイは聞いていない。
耳の奥に残っている。
撃墜時の断片。
“まだ”
敵の。
そして。
“嫌だ”
味方の。
残響。
ただの音。
意味はない。
そう処理してきた。
⸻
夜。
個室。
照明は落としている。
レイは端末を起動する。
残響ログ。
接続値30%。
波形は安定。
異常なし。
再生。
ノイズ。
破断。
その中に混ざる。
“まだ”
停止。
もう一度。
“嫌だ”
停止。
波形は正常。
数値に乱れはない。
ただの信号。
ただの音。
そのはずだ。
レイは視線を落とす。
ふと、別の波形が脳裏を過る。
ネスト・アーヴィン。
試験演習時の記録。
接続値10%。
彼の脳波形は揺れていた。
残響に反応していた。
それでも崩れなかった。
「人間だ」
そう言った。
揺れながら、立っていた。
自分は揺れていない。
揺れる理由がない。
兵器だから。
なのに。
再生。
“まだ”
音が、輪郭を持つ。
意味を持つ。
レイは端末を閉じる。
「……ただの音だ」
言葉にする。
静寂。
目を閉じる。
暗闇の中で、
もう一度。
“嫌だ”
その瞬間。
ほんの僅かに、
胸の奥が波打つ。
錯覚だ。
そう処理する。
だが。
――揺れている気がした。
それだけは、消えなかった。




