第12話 撃つのは私たちだ
王城・外交応接室。
白い天井。
磨かれた長机。
カルネア交易連邦の使節団が整然と並ぶ。
黒を基調とした簡素な正装。
胸元には金の紋章。
共和国側代表の隣に、
フィーネリア・ルミナリアは軍服姿で座っている。
王女ではなく、軍人の顔。
使節代表が微笑む。
「西方戦線の交戦記録、拝見しました」
「REVの基礎フレームは元より我々カルネアの設計」
「REV-IIは非常に優秀に仕上げられている」
ユユの指先が、僅かにタブレットを握り締める。
“仕上げた”のは自分だ。
「ガンズ中距離制圧編成への対応も、お見事です」
感情のない称賛。
「さて、次期供給予定のREV用中距離強化砲ですが」
「現行単発式長銃に比べ、貫通力は1.4倍」
「ただし発熱量は増します」
淡々とした説明。
フィーナが口を開く。
「帝国にも売っているのですか?」
室内が静まる。
使節代表は笑みを崩さない。
「我々は均衡を維持する立場です」
答えになっていない。
フィーナの声が一段強くなる。
「均衡のために、人は死ぬと?」
代表の側近が僅かに眉を動かす。
「戦争は両国の問題です」
「我々は需要に応えているだけ」
「需要?」
フィーナの瞳が揺れる。
「あなた方にとっては、撃墜数も“需要”なの?」
空気が硬くなる。
外交の場だ。
感情は持ち込まないはずだった。
それでも止まらない。
「撃つのは私たちだ」
「聞くのも、私たち」
残響という言葉は出さない。
だが、その重みは滲んでいる。
隣から小さな声。
「フィーナ」
ユユだ。
静かだが、強い。
「ここは交渉の場」
一瞬。
フィーナの呼吸が止まる。
自分の声の熱に気づく。
視線を落とす。
数秒。
そして、ゆっくりと言い直す。
「……失礼しました」
王女の顔に戻る。
使節代表は微笑んだまま。
「お気持ちは理解します」
理解していない。
それでも穏やかだ。
「我々は戦争を望んでいません」
「しかし均衡が崩れれば、より多くが死にます」
冷たい理屈。
否定はできない。
フィーナは短く息を吐く。
「分かっています」
それは本音だ。
会談は続く。
数字。
供給。
納期。
命は単位に変わる。
⸻
廊下。
重い沈黙。
ユユが先に口を開く。
「はぁ、怒ると思った」
「怒ったよ」
即答。
少しだけ自嘲気味。
ユユは立ち止まる。
「あれがカルネアの本質だよ」
「あいつらは感情を挟まない」
フィーナは窓の外を見る。
「嫌い、あんな国」
素直な声。
「でも、使わなきゃ戦えない」
ユユの肩が落ちる。
「私が仕上げたREVも、カルネア設計」
「……後悔してないけど」
「片棒担いでるとは思う」
フィーナは小さく笑う。
「私も担いでる」
ユユが顔を上げる。
「私は撃ってる」
それだけ。
「あなたが仕上げて、私が撃つ」
「一緒だよ」
ユユの目が揺れる。
「慰める側でしょ、普通」
フィーナは少し困った顔で言う。
「友達だから」
沈黙。
やわらかい。
フィーナは白いREVを思い出す。
「カルネアは嫌い」
「でも、REVは嫌いじゃない」
「私が乗るから」
ユユが小さく笑う。
「じゃあもっと良くする」
「残響、少しでも軽くする」
フィーナは首を振る。
「軽くしなくていい」
ユユが驚く。
「え?」
「消したら、撃ったことも消える気がする」
静かな決意。
「私は受け止める」
ユユは数秒、何も言えない。
そして苦笑する。
「……ずるいなあ」
二人は並んで歩き出す。
カルネアは均衡を売る。
共和国は武器を買う。
フィーナは撃つ。
その全部を知った上で。
それでも、立つ。




