第11話 謝らなくていい
西方境界線。
乾いた平原を、白いREVが低く滑走する。
接続値20%。
視界が拡張し、機体の指先まで神経が通る。
遠距離センサーに反応。
帝国GRASP-03《ガンズ》四機。
中距離用連射銃を主装備とする制圧編成。
腰部には振動短刀。
「第1部隊、距離を取って単射で抜く。弾幕に入らないで」
フィーナの声は落ち着いている。
REVは単発式長銃と振動刀。
精度は高いが、装填は重い。
帝国側が先に撃つ。
連射。
乾いた衝撃が地面を削る。
弾幕が迫る。
REV部隊が散開する。
「左翼、下がって」
白い機体だけが前へ出る。
弾丸が白を追う。
装甲に火花。
警告表示。
それでも減速しない。
「今」
背後のREVが単射。
一発。
ガンズ一機、頭部センサーを貫通。
撃墜。
残響が入る。
鋭い恐怖。
途切れた未来。
喉が詰まる。
だが戦場は止まらない。
帝国側、弾幕を強める。
三機が左右展開。
一機が正面制圧。
REV一機が被弾。
「隊長!」
フィーナは振動刃を抜く。
二刀。
白い軌跡が弾幕を裂く。
至近距離。
ガンズの振動短刀が振り下ろされる。
受け流す。
火花。
左刃で腕部を断ち、
右刃で胸部装甲を裂く。
撃墜。
濃い残響。
怒り。
焦燥。
まだ撃てたはずの未来。
視界が揺れる。
「……っ」
呼吸が乱れる。
別回線。
「フィーナ!」
ユユだ。
「振幅が跳ねてる! 接続値下げて!」
返さない。
次のガンズが接近。
連射銃を至近距離で撃ち込む。
白い装甲に弾が散る。
REVが単射を外す。
装填の隙。
ガンズが切り込む。
フィーナが割り込む。
二刀で受ける。
衝撃。
フレームが軋む。
踏み込む。
交差斬撃。
三機目、撃墜。
残響が重なる。
“帰りたい”
“まだ終わってない”
胸の奥に沈む。
最後の一機。
弾倉交換。
再び連射。
フィーナは低姿勢で滑走。
背部から単発長銃を抜く。
狙わない。
撃つ。
脚部を貫通。
機動低下。
間合いを詰める。
二刀同時。
交差斬撃。
ガンズ、沈黙。
戦場が静まる。
⸻
「損害報告」
「軽傷二、重損一」
フィーナはゆっくり息を吐く。
接続値20%。
まだ切らない。
「第1部隊、先に帰投」
「でも隊長――」
「命令」
声は柔らかい。
だが揺れない。
部下機が動き出す。
白いREVだけが残る。
静かな平原。
焦げた装甲。
接続解除。
世界が急に狭くなる。
残響が、遅れて押し寄せる。
一機目。
二機目。
三機目。
重なる。
“帰りたい”
“まだ”
“怖い”
呼吸が浅くなる。
白いコネクションスーツが胸に貼りつく。
指先が震える。
目を閉じる。
拒まない。
だが、重い。
「……っ」
声にならない。
身体が小さく折れる。
コックピットの中で、ただの少女になる。
外から足音。
白いREVの脚部装甲に、そっと手が触れる。
通信が繋がる。
「フィーナ」
ユユだ。
静かな声。
「帰らせたんだね」
フィーナは答えない。
浅い呼吸だけが返る。
ユユは機体に背を預ける。
「今日も重かった?」
沈黙。
それが答え。
「……私、外にいるから」
中へは入らない。
無理に開けない。
ただそこにいる。
フィーナの肩が震える。
涙が零れる。
止めない。
誰にも見せない。
白いREVの中でだけ。
「……ごめん」
小さな声。
ユユは首を振る。
「謝らなくていい」
風が吹く。
焦げた匂いが薄れる。
しばらくして。
フィーナはゆっくり顔を上げる。
涙の跡を拭く。
まだ揺れている。
でも、立てる。
「……帰ろ」
ユユが微笑む。
「うん」
白いREVが動き出す。
強いから戦うのではない。
震えても、立つしかないから戦う。
それが――
フィーネリア・ルミナリア。




