第1話 お前だけだよ
白い訓練室。
壁面モニターに番号が並ぶ。
84
85
86
87
88
89
86、接続。
出力上昇。
波形が暴れる。
悲鳴。
目が裏返る。
接続は切られない。
波形が断絶。
「86、停止。搬出」
灰色。
85、接続。
安定しない。
叫ぶ。
言葉が崩れる。
解除後も笑い続ける。
「85、適合不可。調整送り」
灰色。
空気は変わらない。
次。
88。
出力が上がる。
波形は跳ね上がり、理論値を越える。
「……理想値到達」
小さなざわめき。
88は無言で外れる。
次。
89。
出力上昇。
安定。
理論値上限。
誤差ゼロ。
「基準内最高値。問題なし」
89は解除される。
膝はつかない。
呼吸は乱れているが、立っている。
88が近づく。
軽い声。
「余裕だろ?」
89はモニターを見る。
灰色が増えている。
「俺は、基準内だ」
「十分」
「88は越えている」
間。
88は肩をすくめる。
「たまたまだな」
89は首を振る。
「違う」
モニターにはもう、88と89しか残っていない。
89が言う。
「俺が消えたら」
88は重ねるように言う。
「消えない」
「根拠は」
88は笑う。
「お前だけだよ」
「俺の隣に立てるのは」
89の視線が揺れる。
隣。
上ではない。
下でもない。
隣。
だが、その言葉は残酷だ。
隣に立てるのは89だけ。
それ以外は、消える。
実際に消えている。
“だけ”。
その響きが胸に沈む。
89は再度接続する。
出力を上げる。
痛みを飲み込む。
88の隣に立つために。
壊れないために。
消えないために。
お前しか、ここにはいない。
だから壊れない。
だから消えない。
そう信じていた。
――この日までは。




