第5話 They Call Her the Revolver Witch
「あら、目が覚めたかしら?そんなに警戒しなくてもいいわよ。 楽にしなさい」
「あんた…… だれだよ?」
「ただの魔女よ。人によっては悪魔って呼ばれていたりもするわね」
黒いローブから覗く赤い髪がまるで赤というよりも夕日のような色をしていた。そして目は緑一色で明らかに人間の目ではなく、彼女のその言葉に少し納得する。
「少しお話しましょ」
彼女は指を鳴らすと、周りのつるや木の破片、骨をテーブルや椅子の材料にし、作り上げたテーブルの上にはカップが二つ並び湯気が立っている。
「遠慮せずに座りなさい」
あたしに今は危害を加える事は無いないと信用し、恐る恐る椅子に座る。
座り心地は固いがあたしの体形に合ったかのように座りやすかった。
「あたしは…… 一体――」
「慌てない、慌てない。ここはあなたと私がつながっている精神世界なのよ。 次の質問は私よ」まるで子供に諭すかのように話す彼女はあたしを子ども扱いしているのは確実なのが分った。気を紛らわせようと出されたカップに口を付け、少し飲む。紅茶のほんのりと香る風味があたしの身体の緊張を和らげる。
「まぁ落ち付きなさいって言うのは変なんだけど今あなたは大変なことになってるのね」と言う彼女の目はさっきとは印象変わっていた。
「これが、あたしの限界だから……」
「貴女、魔法はどうしたの?」
「魔法は使えない……」
笑われる。
愚かだとゴミを見るような目。
いつもそうだ。この世界で魔法が使えないということはどういう事か、今まであきれるくらい味わってきた。
それを補うために身体を鍛えてきた。強くないとあたしがこの世界で生きていくのは不可能だったからと強く握った拳からは痛みが走る。
いつもなら、強がりも言えるが、疲れ切っていたあたしはそんな気力は無くなっていた。
「ごめんなさい。軽はずみな事を言ってしまったわ」彼女は優しく両手であたしの両手を包み込む。「え!? 何を―」思いがけない行動に痛みを忘れ、少し、動揺した。
「じっとしていてくれるかしら?」彼女の手が光り、包み込まれたあたしの手から全身の痛みが和らいでいく。
手の平がむず痒くなると、全身の痛みがすっかりと治まり、包み込まれた手が離される。
「自分の人生や運命に抗い。 世間の評価だけじゃない、あなたはこの世界の価値観と戦ったのね」
まさかここまで褒められるとは思っていなかった。
面と食らっていると彼女はあたしの頭に手を置き、優しくなでてくれた。
唐突な事だけど嫌悪感は無く、ただ嬉しかった。
感情が決壊し、涙が頬を伝い抱きつくあたしを彼女はあたしが落ち着くまで、それ以上言葉を掛ける訳でもなく、ただ優しくあたしを撫でてくれた。
「落ち着いたかしら?」
「う、うん……」
「貴女の人生に興味がわいたわ。少し見せてもらうわね」
「へ!?」彼女の手があたしの頭に触れた瞬間、何か吸い込まれるような感覚が襲う。
何かの魔法かと不安すら感じずにすぐに終わり、「そう、あなたがそうなのね……」と彼女は何かに納得し、あたしから手を離した。
その顔は嬉しいとも取れるがどこか悲しそうに見えた。
身体も動くようになり、立ち上がる。
「チェスカ、あたしと取引しない?」
「と、取引って?」
「チェスカ・キャラハン。 貴女はこの私と契約する権利を得たわ。対価は私が指定するかわりに、貴女の願いに最大限に答えるつもりよ」と急なことで、何のことかサッパリ分からないあたしを尻目に彼女は淡々と話を進めていく
「チェスカ、貴女の願いは何かしら?」
「願い? 急に言われたって――」
「そう、じゃあ先に対価を言うわね。それは貴女が子供を産むという未来よ」
「はぁ!?」あたしは一瞬、彼女が何を言っているか分からなかった。
あたしの未来と言われわけが分からない。
魂をとられるって言うのは本で読んだことがあるけど、こんなことは聞いた事がなかった。
「痛く……。 ないのかよ?」
「安心しなさい。子宮を直接取るわけじゃないわ。 貴女が子供を産むという未来を私がもらうだけでそれ自体に痛みは無いわ。そうね。相手は幼馴染のグェルかしら?」
「そ、そんなわけないねぇよ!」とあたしは頭を振りながら否定する。
グェルとはそんな関係じゃない。 ただの幼馴染で特別な関係なんてない。
でも少し冷静に考えたら、じゃあ、仮にあたしが産むはずだった子供は……。
「さっきの話は冗談よ。 未来がどうなるかなんてわからないわ」
「だ、だよな。仮に願いを変えても、対価は?」
「そうね。 変更するつもりはないわ」妊娠から出産。それは大抵の女性が目指すところだ。
それが無くなるという事は自身の性へのアイデンティティー的なものを一つ失うという事だった。
「簡単には決める事が出来ないのは承知しているわ。 でもね。 生半可な覚悟では叶える事が出来ないのよ」
「で、でもそんな……」
「対価が嫌なら諦める事は出来るわよ。 諦めたって貴女には幸せになる方法があるじゃない」といわれ、確かにグェルと結婚する方法もあるのかもしれない。
それでもこのままでいいのかという疑問はあった。
「どうすればいいんだよ。 今更、自分の事なんて考えられぇよ」
「考えなさい、あなた自身がどうなりたいのか、どうしたいのかを……」
今までの何もかもが妹の為であたし自身の事なんて考えたことが無かった。いや、本当はあたしという存在を誰かに認めてほしかった。父親や継母や世間に……
その為に妹を利用しただけ。あたしは売られ、ボロ雑巾のように捨てられのはその結果だったのかもしれない。壊された銃の破片を見つめながら、甘い幻想は消えた事を理解する。
「チェスカ・キャラハン。 決断し、それは対価にするだけの価値のある願いかしら?」
「あたしは呪縛から解き放たれたんだ。キャラハン家と言う呪縛、そして女としての呪縛もここで終わらせる。リスク?対価?上等だ」と自分の拳を強く握りしめる。
「本当にいいのね」
あたしは彼女の言葉に黙って頷く。
これはチャンスだ。あたしはこの契約に賭けるしかなかった。これを逃したら、自分自身すら救う事が出来ない。打破する可能性があるなら、対価に対してはむしろおつりが返って来るくらいだ。
「契約成立ね。じゃあ、ここに寝転んでくれるかしら? ところでこれは何かしら?」
「あ、えぇ!?」そこにあったのはバラバラになったあたしのお守りだった。欠片を手に取り、耳に当てゆっくりとシリンダーを回転させる。壊れていたがシリンダーはカチカチ鳴る。あたしはこの音がとても好きだった。
「あなた、面白いものを持ってるわね。それはこの世界には存在しないものよ」
「存在しないもの?」
「そう、しかもそれは武器ってことを理解してるの?」
「あぁ、でも何度やっても音すら出なかったんだけど」
「あなた、武器の記憶を読んだの!?」
「武器の記憶?」
「まぁいいわ、早くしなさい、グズは嫌よ」と言われ、あたしは蔓で作られた台に仰向けになる。彼女のヒヤリとした手があたしのお腹に押し当てられ、少しくすぐったい。
地面には魔法陣が展開され、手から腹部へとじんわりと暖かく、少し、くすぐったい感覚がお腹から身体全体に広がっていく。
「あなたの幸福を祈るわ。死ぬほど痛いから、覚悟しておいた方がいいわよ」
「上等!」と啖呵を切ると胸部に魔法陣が現れ、彼女が魔法陣に手を中に入れた瞬間、強烈な痛みが走る。
痛みは胸部だけでなく下腹部や内臓に直接、針を刺したような痛みが襲う。
「はぁ……っはぁ……」
「銃を分解して魔術を腕に移植するわね。さぁ、ここからが本番。銃その物を魔法としてあなたが使える様にしないといけないわね」とあたしの不安と関係なく、淡々と作業が進められていく。
「さぁ、あなたは持ち主と一つになるわ」とバラバラに砕かれた銃は浮かび上がると黒く光る粒となり、あたしの右腕に吸い込まれる。
右腕に文字が刻まれていくたびに骨に響く激痛が全身を流れる。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」魔力が刻まれる度に声がかれる程絶叫し、暴れようとするが蔦が腕や足を拘束され動けず、叫び声がだけが響き渡る。
「いい魔術ね。あなたは素敵な魔女になるわ。そぉねリボルバーの魔女なんてどうかしら?」と言い、話しながら、彼女はナイフを取り出し、あたしの髪をナイフで切り、髪は紅い光となり魔法陣に吸い込まれる。
次に魔女はナイフで指を少し切り、滲んだ血であたしの前頭部に文字書く。
【Πιστολοφόρος】
「さぁ、最後の仕上げね。これが終われば、あたなは力を使う事が出来るわ」
そして魔女は詠う
Σὺ, ψυχὴ βαθύνοος, ἐν τῇ καμίνῳ τοῦ ᾍδου τήξον,
καὶ καινὴ ψυχὴ χυτευθήτω.
(汝、罪深き魂は地獄の炉に溶け込み、新たな魂が鋳造される。)
Σὺ, τὸ αἷμα σου βληθῇ ὡς σφαῖρα σιδηρᾶ,
τὰ δάκρυά σου γενέσθω πυρίσις μαγικῆς πυρίτιδος,
ἡ ἀκατάλυτος καρδία σου σκανδάλη γένηται
καὶ πάντα διατρήσαι.
(汝、血は鋼の弾丸となり、涙は秘めた魔の火薬の力に変わり、不屈の心臓は引き金となりすべてを撃ち抜く。)
Σὺ, τὸ αἰώνιον μαρτύριον τῆς ψυχῆς σου
ἐν ὀνόματι τῆς ἐλέου φανερωθήτω.
(汝、魂の永遠の苦痛は、慈愛の名のもとに顕現される。)
Σὺ, ἡ εἰρήνη ἀπόλωλε,
πολλάκις πλανηθεῖσα,
ἐν ἐρήμοις τὴν σελήνην διώκουσα,
τὸν ἥλιον ἀγκαλιαζομένη τρέχουσα.
(汝、平穏は失われ、幾度も彷徨い、荒野で月影を追い、日輪を抱き走り続ける。)
Ἐγώ, ἐν τῷ ὀνόματι τῆς Κίρκης, τῆς μάγισσας τοῦ ᾍδου,
(我、地獄の魔女キルケの名において)
τὰς Ἀλυσίδας τῆς Μοίρας λύω καὶ ἀπολύω!
(運命の鎖を解き放て!)
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