第1話 能無し少女の鉄の夢 その1
あたしは風の国のカーラ村と言う所で育った。穏やかな気候に美しい緑の国。カーラ村は平原の小さな村であたしは4人家族で暮らしている。
あたしはこの世界では珍しく褐色の肌で長い黒髪が自慢だ。父親には似ていないが父さんが言うには母親に一応は似ているらしい。
「ふぅ、今日はこんな所かぁ」
今日の分の薪割が終わり、黒く長い髪が優しく風になびき、そっとかき上げ、目の前の薪割台を見つめる。
この世界では誰もが魔法で出来る作業を、あたしは自分の力でこなしている。
理由は簡単。魔法が使えないからだ。この世界で唯一魔法が使えない落ちこぼれ。
それがあたしだ。
今日のノルマを終えたあたしは秘密の場所でいつものように本を読む。
一通り読み終わり、本を閉じ、木陰に座りながら空を眺める。どこまでも続く青い空を見ながら、自分もいつか遠くへ行けたらと考える。
「あ、そぉいえば今日、面白い物を拾ったんだった」
いつもの様に秘密の訓練所に向かう途中に、冒険者達が装備や武器のゴミ捨て場。腐食した鉄の匂いとの中で明らかに異質と思われる「それ」を見つけた。
売ればお金になるものかもしれないと思い恐る恐る手にする。
それは冷たく、鉄よりの重量感を感じる。
一見するとおかしなハンマーと思った。それは持ち手と打つ場所の材質が逆なのだ。
でもハンマーの部分には星座のような模様と鉄の棒の間に輪っかが付いていて中に三日月のような突起が出ている。
「これってよく見たら棒じゃなくて筒なのかな?」
試しに人指し指を入れるとザラザラとした細かい凹凸が沢山ついていて、指を抜くと真っ黒に汚れていたので、この道具は筒から火が出るものだと考えた。
そう考えるとハンマーと思っていた部分は手で握ると輪っかと中の突起物に人指し指が自然に触れる。
「これ、飾りじゃなかったのか」
握っている手の親指近くの突起物は親指で動かすことが出来たので下に降ろすと僅かな音が鳴り、人指し指の突起が少し硬くなったように感じた。
あたしはこの道具は何をするもので、何に使う物なのかがあたしには分らなかった。
魔道具なら魔石がどこかについているはずだがそれが無い。
不思議な道具だけどあたしにとってはなぜか魅力的に見えた。
「動かせるかな」とあたしの指が三日月の部分を動かしたその瞬間、落雷が起きたような大きな音が耳に響き視界が爆ぜる。
あたしの身体はいつの間にか吹き荒れる砂塵に飲み込まれ、後ろから砂を叩くような音が聞こえる。
(な、何でこんな所に!?さっきまで居た場所と――)大勢の男達と馬の蹄の音が鳴り響き、あたしと同じような形の物を持った人たちが、帽子とマントを羽織って馬で駆ける様子が見え、あたしに向かってきていた。走って逃げようにも避ける事が出来ず思わず叫び声をあげた。
「あ、あれ?」不思議とケガどころか男達はあたしに気が付くことなくしかも身体をすり抜けて行く。
「え、何、これって幻覚!?」
大きな馬の鳴き声と共に振り向くとそこには黒い馬に乗った女性が男達を追って駆けて行くのが見える。その女性は茶色の帽子から見える黒く長い髪にその隙間から見える宝石のような青い目でそれは戦士の目をしていた。
「か、かっこいい……」とあたしは呟いてしまう。カーラ村にも女性の冒険者が稀に来るがそれとは比べ物にならない位カッコよかった。
黒馬に乗り、美しい空の下。砂と岩の世界を駆け巡るその姿に一目で憧れてしまった。
「さぁ、あなた達、お縄に着く時間よ」と彼女は敵に臆する事無く、大勢の男達を相手に一歩も引かない。仲間が倒され、逃げる男に女性はロープを投げ、男を巻き付け、力いっぱい遠くまで投げ飛ばす。
残った男達が手に握ったそれ(銃)を女性に向かって突起を何度も動かす。乾いた大きな音が耳の中まで響く。
女性は臆する様子も無く、ゆっくりと自分の銃を構える。
「あれ?この模様って!?」それはあたしが持っている物と全く同じ場所に星座のような模様が刻まれている事に気が付き、驚いた。その瞬間、破裂音が聞こえ、あたしの意識は白い光に包まれる。
「な、なんだ今の……」目が覚めたあたしは、心臓の鼓動が壊れた鉄塊を抱きしめていた。
さっき見た光景が何なのかわからなかったが、筒が火を噴き雷鳴があたしの心を確かに貫いていた。
(あたしも、強くなりたい)
その日からあたしは訓練が始まる。薪割の他に、ただ手に握りこの鉄の塊の重みに耐える事だ。あの女性の構えが目に焼き付いていたのだが、実際にやると腕が鉄の重さに耐える事が出来なかった。
この鉄の塊1つ支える事が出来なくては剣なんて到底持てない。腕を鍛えるにはちょうど良かった。
支える事が出来なければ腕立て伏せや、廃材の鎧を付けて薪割をする。重く、動きづらく何度も転ぶ。
結局、巻き割りに慣れるまで2週間を要した。
さらにそこからあの女性の様に構える事が出来るまでにさらに1ヶ月の時間が掛かった。
それでも少しずつでも進歩しているのがうれしかった。
「今日はここまでか……」
「はぁ……」薪割と薪売りの後に訓練の後、家に着くころには、訓練での達成感が薄れ、気の重さだけを感じる。
労働や訓練の疲れではない、家の居心地が悪いのだ。問題は、継母のケリーだ。あたしは父親の連れ子で、ケイトは腹違いの妹。
そうなると自然にあたしは場違いの人間となるのだ。継母はあたしへの対応も冷たいのは今に始まった事ではない。
辛いのは、ケイトに魔法の才能が開花した事で父さんとの距離感を感じるようになった事だ。
食事の時でもあたしから話しかける事はあっても父さんから話しかけられる事はなくなっていた。
家に着き、ドアノブに手を掛けるも、それが重く感じる。
でも帰らなければいけない。
(だってあたしの家だから……)
「お母さん、ただいま」
「あら今日は早かったじゃない」
「うん、今日は薪が早く売れたから……」
「へぇ…… そうなの良かったじゃない」 腹違いとはいえ、あたしが帰って来てもこの程度だ。義理とはいえ重労働から帰ってきたのに淡白な反応。幼馴染のグエルの所の夫婦の温かみを思い出し、気を紛らわせる。
「今日の売り上げは? 全部売って来たんでしょ?」
あたしはバッグから売上金をテーブルに並べた。売り上げの金額を見た彼女は少し微笑みあたしは胸をなで下ろす。
「へぇやったじゃない。はいこれ、お昼ごはん」お金を数え満足したのか、パンと冷めたスープを出してくれる。
(固いな…… この前のカビの生えたパンよりマシか)パンは固かったが、スープに浸しながらなんとか食べる事が出来た。
「ごちそうさま」 食器を濯ぐ為立ち上がると、床に金属音が鳴り、あたしは慌ててスカートのポケットに手を入れ少し破れていた事に気が付く。
(しまった!?)慌てて拾おうとした瞬間、ほほの痛みと強烈な破裂音にあたしの身体は床に崩れ、食事の味をかき消すような鉄の味が広がる。
読んで頂いてありがとうございます。
お久しぶりです。この度、前回の作品を書き直しました。
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