身の程を知った願い
途方もない幸運が訪れた。
なんと願いを叶えてくれる神様がこう言ってくれたのだ。
「あなたの願いをただ一つだけ叶えましょう」
さて、何を願おうか。
不老不死?
友達や恋人、家族……いや、そもそも星の寿命が亡くなっても生きるなんて嫌だ。
大金持ち?
分不相応の金なんて身を滅ぼすか、そうでなくとも災いしか呼ばないだろう。
自分の事を愛してくれる友人や恋人?
嬉しいけれど、願いから出たものなんてなぁ……。
「願いはないのですか?」
あぁ、ちょっと待ってくれ。
中々良い願い事が思いつかないんだよ。
いっそ子供みたいに世界征服やヒーローになってみるか?
数日もせずに飽きて終わりだ。
というか、こんな自分にこんな幸運なんて訪れるものか?
いや、そもそも今にして思えばこのとてつもない幸運があるということ自体がキナ臭くて仕方ない。
「そろそろ時間切れですよ」
あぁ。
わかった。わかった。
今、願い事を言うよ。
「はよ言え」
はいはい。
それじゃ、願い事は――。
***
「この記憶を消してくれ」
ふと、午睡から目覚める。
辺りを見回すと見慣れた景色。
声がして目覚めた。
だけど、その声は紛れもなく自分の物だ。
「どんな夢を見ていたんだっけ?」
少し考えたけれど、思い出せなかった。
「ま、忘れるってことはどうでも良いってことだ」
そう呟いて日常へと舞い戻る。
退屈でどうしようもなくて、それでいて身の程に相応しい人生に。




