第五話「砂被り姫の居候先」後編
本日は第5話まで投稿いたしました。
アミーポーシュ領の遺跡について、あれやこれやと考察・議論する二人は、ふと外が赤くなっていることに気づく。
「あ、もう夕方ですね」
「なら部屋の準備をしないと。案内するよ」
「ありがとうございます、カイロさん」
途方もない熱量で意気投合した二人は、ずいぶんと長く話し込んでいた。
気づけば日は沈みかけ、空を赤く染めている。
住み込みで働きたいと言っていたロゼッタを部屋に案内しようとしたとき、ピタと彼の足が止まる。
「いや待って。本当に、本当にいいんだね? 一応僕男だからね?」
「え? 何か問題ありますか?」
確認する青年を見て、ロゼッタは首を傾げた。遺跡発掘作業の中で必要があれば野宿に近しいことだってしてきた。屋根と壁があるのなら十分だ。男一人が一緒にいる程度、気にするようなことではない。
「住み込みで働かせてほしいと言ったのはこちらです。それに、マドレーヌさんの紹介ですから、何も心配はありませんし」
「箱入り娘っていう奴なのかな……。いや、でもマドレーヌ様の信頼もかかっているわけだし、大丈夫だ……ろうか?」
「もしかして、何か問題が?」
問いかけるロゼッタに、カイロは肩の力を抜いて応える。
「いや、何でもない。ただ、使える部屋が父と母の寝室だった部屋だけで」
「それは、お父上にご迷惑では?」
「父さんは今、帝都の博物館で働いているから」
ではお母上は? ――と聞くのは不躾だ。
「では、ご両親の寝台を借りてもいいでしょうか」
「ああ。ベッドも使われたほうが嬉しいだろう」
荷物を部屋に持っていく。カイロが掃除をしているのか。使っていないと言ってもきれいに整えられていた。布団を取り出せば、すぐにでも眠れそうだ。
「そういえば、ロゼッタさんは、何年ほど研究を?」
「父についていたのは七歳からで、それからもう十年になりますね」
カエルム領にいたころの遺跡研究は彼女が担っていた。資格を取るまでは父の名代という形であったが、所得後は自ら発掘隊も率いた。
長い髪も邪魔だと切り、毎日の作業の中で日焼け対策を怠って小麦色の肌を得た。けれどそれは、考古学を志す者にとっては誇りだ。
図書館に籠って文献をまとめるだけが考古学ではない。他人が残したものではなく、自分で見て調べて手にして、初めて研究は成立する。
「カイロさんも研究資格を持っていますよね」
「もちろん。研究は先生のところで教えてもらっていたから十年近くになるけど、資格自体は五年ほど前に」
ロゼッタは、カイロは自分より年上だとは思っている。だがどれほど上なのか。見た目は若い。まだ十七歳のロゼッタがそう思うのだから、同じ十代だろうか。
「……カイロさんって、いくつ?」
「え? 今年十九だけど、老けて見えるかな?」
「ううん! むしろすごく若く見え――というか、実際若いですね」
「けど学界でもあまりいい顔をされないんだ。特にマドレーヌ様のご出資で、研究をさせてもらっている若造からね」
それについては、ロゼッタもよくわかる。メイベリアン系遺跡研究は帝都の歴史家たちからは好まれない。
そう思えば、余計にマドレーヌが導いてくれたこの出会いに、二人は無言の感謝を感じるのだった。
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