第五話「砂被り姫の居候先」前編
本日は第5話まで投稿いたしました。
ロゼッタとカイロ、二人は地図を広げて意見を交わす。
「アミーポーシュ領付近で発見された遺跡ですけど、おそらく父はマドレーヌさんにも声をかけて、遺跡の発掘作業を行うはずです」
「まだマドレーヌ様から通達は来てないけど、たぶん声はかかると思うよ」
「マドレーヌさんは決めたらすぐ行動する人ですからね……」
「それで、ほとんどが山岳部付近でしか発見されてこなかった遺跡がどうしてここにあると思う。帝国領になる前は、やはりここに住んでいたのかな」
「えっと、カエルム領は現在お父様が十八代目で、辺境伯領を形成したのは、四百年近く前です。カエルムは帝国発足と同時期の家柄で、それ以前となると無主地だったかと」
遺跡があった場所について考察をしようとするが、現在史料が足りない。これは遺跡そのものより、実家や帝国の史料について当たる方がいいだろう。
「遺跡が見つかったのは、平原の陥没地だ」
「動物たちの水飲み場みたいになっていて、狩人たちが水場を利用しようとしたとき、崩れた壁の中に遺跡を確認したそうですよ」
「雨水が溜まってできているとなると、劣化状態が心配だな」
ロゼッタは父アレクに、自分がアミーポーシュ領へ行くことは伝えてある。
遺跡の場所が男爵領に近いから、人手人足の補充は周辺で行うだろう。
特に発掘作業は金がかかる。マドレーヌが協力してくれるなら、カエルムとして悪いことはない。こうして事前の準備を進めておいて損はない。
「マドレーヌ様は遺跡発掘の話があるときは、よく父と僕に声をかけてくださった。全部に参加できるわけではないけれど、給金はきちんとしている」
「なら、私もそこに参加させてもらわないと。あ、ちゃんと国立博物館での研究者資格も所得していますから」
「十歳の最年少合格者が出たと聞いたことがあるけれど、ロゼッタさんだったんだ」
「ふふふっ、古代装飾船の構造に関する論文と筆記試験満点で一発です」
得意げに笑うロゼッタだが、それは彼女が考古学の道を進む一つの自信だ。
学と志しある者ならば、研究者の道は誰にでも開かれる。その先で結果を示せるかどうかは、本人次第であるけれど。
「……あれ? マドレーヌ様からの直接の依頼の予定はないのか」
「勘当された辺境伯令嬢と男爵夫人という関係上、直接は出せませんよ」
肩をすくめたロゼッタは、カイロを見ながら不敵に笑う。
「だから、あなたの助手として、がんばらせていただきます」
これは、彼女にとって第一歩だ。
カエルム辺境伯の娘として遺跡を管理・研究するのではなく、一人の考古学者として自立する。今はまだカイロの助手という立場であるけれど、資格はすでにある。
示すべきは、実績だった。
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