第四話「砂被り姫の理解者」後編
本日は第5話までお楽しみください。
ロゼッタとアンティークショップの青年は、お互いの共通の話題に熱くなる。
ここにマドレーヌがいれば、二人に水をかけてでも沈静化させただろうが、あいにくとここには誰もいない。
「まさか、メイベリアンの研究にこれほど理解のある人がいるなんて……」
「私も、びっくりしました」
息を切らしながら椅子に座る二人は、冷めたお茶を飲んで落ち着く。
「先ほどまでの無礼の謝罪と、失言を撤回します。本当に、ごめんなさい」
「いやいや。カエルムさんも悪気があったわけではないし、むしろ善意でカエルム領や他の遺跡のことを……ん? カエルム?」
そこで、青年は気づいたらしい。目の前の遺跡研究の話題についてこられる女性は誰なのか。遺跡が出土する辺境伯であるカエルムと同じ苗字を持ち、遺跡の造詣が深い人物。
「は、伯爵家のご令嬢!?」
椅子を倒しながら驚きすっころぶ青年に、ロゼッタは苦笑い気味に応える。
「うーん、そうだったんですけど、今はちょっと勘当中でして。ロゼッタと呼んでくださいな。あなたは、えっと……」
「申し遅れました。僕はカイロ・ベアーガ。このアンティークショップ『ル・ビュー』の跡取り兼店主です」
カイロはすっと立ち上がり、丁寧な一礼を返す。
心境はまだ驚愕から立ち直っていないようだが、座ったロゼッタは構わず話を切り出した。
「ベアーガさんは、メイベリアン系遺跡の研究を生業に?」
「生業というほどでは。あ、ロゼッタ様――ロゼッタさんも、敬称とかなくても……」
「わかりました。では、カイロさん。あなたの遺跡の研究は、二年だけですか?」
「いや。この碑文の研究を含めてマドレーヌ様の援助を受けたのは二年間だけだけど、父の手伝いの傍らで、研究は十年以上」
ロゼッタは手を叩いた。まさか、こんな奇跡のような人物と巡り合えるなんて。
マドレーヌの人を見る目は確かだ。ロゼッタと気が合うと彼女が考えたのなら、間違いない。
「カイロさん、改めてお願いがあります」
「……どうぞ」
「ここで働かせてください。住み込みで、お店の手伝いでも、掃除でも必要なら洗濯なんかもできます。ぜひ、研究助手にしてください」
「え、えっ!? いや、評価してくれるのは嬉しいけど、暮らすならマドレーヌ様の所のほうが……」
「私は研究がしたいんです。私は女で、力も体力も多いわけじゃありません。でも、遺跡の発掘と研究には誰よりも情熱を燃やしてます。あなたにだって負けないくらい!」
机に身を乗り出し、カイロをじっと見つめる。
「本気で?」
「本気で、私はあなたに雇われたいと思っています。さぁ、答えてください」
脅迫するような勢いだが、ここではっきりさせておきたい。
これからメイベリアン系遺跡だろうが、他の遺跡だろうが、彼は研究するだろう。その中で、ロゼッタという助手を必要とするのかどうか。
数秒間の思案の後、ちゃんと椅子に座り直したカイロはロゼッタに向き合った。
「僕は、今まで同じような研究に熱を上げる人を見たことがない。考古学会も、帝国の歴史を賞賛するだけで、真実味に欠けて、馴染めなかった」
「よくわかります」
「だから、君――ロゼッタさんのような人に出会えたことは大きな幸運だ。ぜひ、僕と一緒に古の真実へ、立ち会ってほしい」
「こちらこそ、喜んで!」
固い握手が二人の間で交わされる。
働き口を探したはずのロゼッタだが、奇妙な縁を見つけたのだった。
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