第十三話「砂被り姫の相棒」前編
翌日、そしてさらに次の日と、発掘作業は雨天以外続いた。
陣頭指揮を執るのはカイロであり、ロゼッタもそれをよく補佐し、時に自らが砂と泥を被りながらも、遺跡の修復を担った。
そして、宮廷伯の話題は、一度も口にはしなかった。
「順調そうみたいね、ロゼッタの久しぶりの発掘は」
「ええ。発掘自体は、順調みたいですが……」
「あら、言葉を濁すわね」
遺跡全体を見渡せる小高い丘。そこに立つカイロの下に、マドレーヌがやってきた。彼女の問いかけに、もっとはっきりと答えることはできただろう。
しかし、カイロはそうすることができなかった。
「何かあった?」
「先日の、初期発掘の成功を祝いましたよね。あの時。宮廷伯から手紙が来て」
「あら。宮廷伯からなんてどうしたの」
「……その、婚約のやり直しをしないかと、打診されたそうです。直接」
「えぇぇ……やめたほうがいいわよ。婚約相手って結局あの男でしょ」
「僕も一度会いました。あまり……その、素行のいい人ではありませんでしたね」
「はっきりとクズ野郎って言ってお上げなさいな」
アミーポーシュ領でシュテサル卿に出会ったことは、マドレーヌに報告済みであった。
彼女がその後何をしたのかはカイロもロゼッタも知らない。ただそれが、宮廷伯の社交界での地位に影響を与えたのは確かだろう。
「宮廷伯は領地を持たない文官よ。だからこそ辺境伯――国境を警備し、社交界には出ずとも、国家の重用されるカエルム家の後ろ盾を得たいのよ」
「帝国の上層部は、何か内乱でも起こるんですか?」
「単なる日常的な宮廷内闘争よ。こっちは国の東側だからあんまり実感ないと思うけど、西側諸国との戦いがちょっと激化しててね。宮廷伯は文武の力を手にして、お近づきになりたい人がいるのよ」
婚約話の裏側には、案外深い事情があったらしい。尤も当事者足るロゼッタに、そのあたりのことは伝わっていないのだろうけれど。
「それは、彼女のあの快活さと、ひたむきな探求心を、曇らせる……」
カイロは、ぐっと拳を握る。憤りが、爪を食い込ませた。
「同感よ。再婚約なんて私は反対するわ。辺境伯に告げ口してやろうかしら」
「でも、そうすれば、ロゼッタさんは大手を振って故郷に帰って、今度は発掘にも気軽に携われるようになるんでしょうか」
相手側からの再開申し入れだ。結婚後の力関係も宮廷伯と辺境伯では微妙なところだったが、それが明確化されることだろう。
決して、ロゼッタには悪い話ではない。
「納得しがたいって顔をしているわよ。あなた」
「……え? 僕が……?」
「本当に、純粋ね。考古学についても、何にでも」
扇で口元を隠すマドレーヌに、カイロは首を傾げた。何がそんなに面白いのか。
自分はただ――ロゼッタが笑っていられるのならば、それでいいと思えるのに。
「そろそろ現場に戻りなさいな。あなたは彼女の相棒みたいなものでしょう」
「……はい」
今彼女は、発掘に集中して考えないようにしている。
ならば、自分がその話をする必要はない。ロゼッタからの相談もないのに、首を突っ込むべきではない。
「もうちょっと積極的でもいいと思うんだけどな、私は」
マドレーヌの言葉は誰にも届かず、走り去っていくカイロをただ見送った。
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