第十一話「砂被り姫の発掘」後編
調査は順調だ。
幸いにも水は常に流れ込むわけではなく、地面から染み出す地下水と、平原のわずかな傾斜から流れてくる水だけで、大きな水源そのものがあるわけではない。
地面の水の流れを小さな堤防と水路で整える。そのうち簡易的な屋根も出来上がり、雨が降っても防いでくれる。
「整地の指示は済みました。実際の作業は、専門の職人たちにお任せしています」
「助手という体裁のはずが、すっかりロゼッタさんに任せちゃったね」
カイロが水のかき出しを手伝う傍ら、ロゼッタはそれまでの経験も活かして周辺の整備を行っていた。
これがただの洞穴遺跡であれば、多少の整備で済んだだろうが、今回は水没している。これ以上水に浸かり続ければ、一部の壁画が剥離してしまうことも考えられる。むろん、それまで水分を含んでいたことで保たれていた部分もあるだろう。
慎重に、かつ手早く早期に調査を進める必要があった。
「けれど、ずいぶん整地に詳しいね」
「お父様が辺境伯として砦や街道の整備を任されてもいたんです。それを見ていたら、自然とどうすればいいかもわかってきたんです」
「ならその観点から見て、元からあの遺跡は水没していたと思うかい?」
「いいえ。周辺整備の傍らでちょっと高いところから見てみたんですけど、たぶんここは砦だったんです。ところどころに建物の跡があるんですけど、全体を囲むように、土の違う部分がありました。かなりしっかりと固めた場所です」
「壁の名残か。道かもしれないと言う可能性は?」
「道にしてはここを囲む意味が分かりませんし、少し曲線が大きすぎます。他に繋がる場所もないので、道とは考えられません」
淀みない答え。本格的な調査はまだだが、遠目の監察だけでも把握できることはあった。
「やはりすごいな。僕よりもずっとしっかり視ている」
感歎の声が漏れる。長年の経験は決して裏切りはしない。
地形図を書く姿は様になり、土に汚れることも厭わない。自ら水の抜けた縦穴に降りると、まだ乾いていない地面に足を沈めた。
「……やっぱり、砂が溜まりすぎているんです! それでここに水が溜まって、動物たちの水飲み場になったんですよ」
「ちょ、ロゼッタさん! 先走らないで。泥が溜まって危ないから」
「平気です! すぐに遺跡の中までぇ!?」
案の定、ロゼッタは泥に足を取られてすっころぶ。舞踏会に出るようなヒールやドレスではなく、動きやすい服装で来ている。とはいえ、足は深く沈みこむ。
「ロゼッタ!」
「ううう……砂被りではなく、泥塗れですね……」
同じく降りてきたカイロに助け起こされると、遺跡の端からこぼれる湧き水で顔と袖を濯ぐ。払い落とせば済む砂と違って、泥は体にへばりついて体力を奪う。
二人でお互いを支え合いながら、泥に沈んだ足を引き抜いた。
「泥のかき出しは、あとは皆に頼もう。僕たちは、本命へ」
「はい。久しぶりの、遺跡探索ですね」
まだ水に濡れ、溜まった水が抜けていない部分もあるだろう。
だが、調査を開始するにはもう十分だ。
「行きましょう、カイロさん!」
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