第十話「砂被り姫の解読」後編
マドレーヌから許可書を貰って数日後。
ロゼッタたちは男爵家の馬車の中で揺られながら、発掘現場を目指していた。
二人の恰好は街にいるときのようなものではなく、頑丈さと通気性を考慮した地味目の恰好であった。おしゃれではないが、機能性は高い。
「それでなんだけど、カイロ、ロゼッタ。これから行く遺跡って実際どんなものなの?」
一方のマドレーヌは普段と変わらない舞踏会に行くのかというようなドレス姿だ。彼女はパトロンであり、作業者ではない。
「マドレーヌ様がその手のことを気にするのは珍しいですね」
「いつもだったら何が出るのか、宝石が埋まっているのかしか聞かないのに」
アミーポーシュ領は考古学、芸術、民俗学、工業、哲学、農業――あらゆる学問・産業に彼女の私財が浸透している。
ただ、その内容そのものに興味を示すのは、芸術分野以外では稀だ。一目で綺麗かどうかわかるもの以外は、その手の専門家に全てを任せる。そして何か成し遂げたという名声に、自分の名前を加えることだけを彼女はしてきた。
少なくとも、考古学や哲学は「へー」とか「そうなんだ」程度で話を毎回切り上げる。
「今回見つかったのはメイベリアン系遺跡。一昨年からマドレーヌ様のご依頼で引き受けた解読中の碑文を使っていた民族の遺跡です」
「本来なら山岳信仰の民族なので、平原に遺跡や居住区が見つかったことは、これまでありませんでした。最低限、山のふもと、隣接する森の中でしか見つからなかったものが、今回初めて、平原部で見つかったんです」
「だから、非常に珍しいのね」
「民族の移動は歴史上たびたび起こっていますし、帝国の人間も、もともとはもっと東、山を越えてきた民族ではないかという研究もありますが、それはひとまず。今まで見つからなかった場所に、遺跡が見つかったのは大きな発見です」
「それまで考えられていた生活圏を離れるということは、民族の移動、もしくは交流があったことの大きな証拠です。メイベリアンと帝国の関係性に対し、仇敵以外の答えが見つかるかもしれないんです」
馬車の中で熱弁を振るう二人に、若干マドレーヌも気圧され気味だ。しかし、彼女も彼女で、それまで興味のなかった分野をきちんと知ろうとしていた。
「これまで帝国は、メイベリアンとの関係を全て辺境伯に押し付けてきたけれど、私の領土まで彼らの交流を広げられたのなら、新しい風を吹き込めるかもしれないわね」
「そもそも、メイベリアンたちの住む山より東は、まったく未知の領域なんです。そこでどんな文化・文明が発展しているのか。帝国の商人たちも、訪れたことがありません」
メイベリアンとの小競り合いは小康状態にある。いずれきちんとした条約や誓約を交わし、未開の山と、閉ざしていた平原が開かれる。その時に間違いを起こさないためにも、彼らのことをもっと知らなくてはならない。
「にしても、ロゼッタもよくやるわね。日焼けもして、きれいな髪も邪魔になるって切っちゃって、土で頬を汚して。それでもまだ、発掘したいのよね」
「……やっぱり、似合いませんか。女に遺跡発掘は」
「似合う似合わないで言ったら、あなたにドレスを着せて、扇で口元を隠させるほうが、似合わないわ。ねぇ、カイロ」
「ええ。ロゼッタさんがやりたいのなら、誰がケチをつけても関係ない。……というか、今さらで研究を降りられたら僕が困る」
数少ない社交界ですら、マドレーヌ以外には奇異の目で見られる日々だった。
けれど、今は違う。ここには、カイロという同志もいた。
「ほら。もうすぐ着くわよ。二人とも、準備なさい」
マドレーヌの言葉に勢いよく答えた二人は、平原の向こうに集まる人だかりを目にする。
ようやく、現場に立つ時が来た。
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