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第七話「砂被り姫の研究」前編



 怒涛の『ル・ビュー』初日を終えたロゼッタは、カイロが入れた紅茶を飲みながら一息つく。すでにハリエの姿はなく、店先には準備中(Close)の札が掛かる。


「はぁぁぁぁ……沁みます」

「はは、まさかの大繁盛に、苦労をかけたね」

「いえ、珍しい骨董品や調度品を見れて、面白かったですよ。さすがに数が多いですが」


「あらあら、店は切り盛りできたみたいね」


 そこに現れたのはマドレーヌ本人だった。

 この度の大繁盛は、事前に彼女が配って回った『ル・ビュー』への紹介状の効力だった。販売はともかく、買取するならばある程度の信頼性が必要だ。

 やたらめったら買い取った結果盗品を買い取っていて、それを取り戻しに来た被害者と争いになる――なんてことは骨董品店や質屋ではよくある話だ。

 それで盗人を捕まえる契機になればいいが、盗人の代わりに訴えられたら目も当てられない。


「紹介状を渡したのは、うちで働いている人たちばかりだから大丈夫よ。それに子爵級ともなれば案外いいお宝を隠し持っているものだから」

「おかげで夫人がお探しだった《蒼の国(チュークイズ)》のコラムズ朝七十年代もののペンダント。作者刻印無傷のものも入りました」

「あら、じゃあ貰おうかしら」

「はい。ちょっとお高いですけど」


 ロゼッタの買い取ったものの一つにそれはあった。深い青緑の石を取り囲むような金と銀の繊細な細工。余計な加工をしない天然の石を輝かせるそれは、誰が見ても振り返る美人であるマドレーヌによく似合うだろう。


「どう、ロゼッタが来てくれて助かったでしょう」

「マドレーヌ様があんなに大量に紹介状を配らなければよかった話なんですが……実際とても助かりましたし、僕の趣味を理解できる友人ができてとてもうれしいです」

「類は友を呼ぶものね。ロゼッタ、あなたも初めてのことでよくがんばったわね」


 姉か、ともすれば母のような感覚で接するマドレーヌに、ロゼッタは少なからずむず痒さを覚える。それは決して悪いものではなく、むしろ嬉しくもあった。


「でも困ります。あまりお客さんが多すぎると、あの碑文の解読が進まないので」

「あらぁ、それは私も困るわねぇ。メイベリアン系遺跡のことは、昔からあなたやカイロが熱弁するものだから、私自身気になっちゃってるのよ」

「つまり、私たちの宣伝のたまものということですね」


 得意げにするロゼッタに、カイロは苦笑を浮かべる。


「けれど、マドレーヌ様のご出資やご紹介があると言っても、実際の学会ではメイベリアン系遺跡の研究は、評価がされないからなぁ……」

「ううぅぅ……それは、言わないでください……」


 彼の言葉にロゼッタは肩を落とす。

 カイロが何を言いたいか。ロゼッタ自身十分理解していた。彼女が自らの研究資格を獲得するために選んだ議題は、旧帝国遺跡で発掘された古代の装飾船に関する論文だった。

 これもアミーポーシュ領で発掘されたもので、父の協力ありきとは言え、彼女自身で調べ、考察し、自信をもって提出した論文だった。


「ねぇ、二人とも。私にとってメイベリアンがどんなものかもよくわからないし、なんで評価されないのか、よくわからないんだけど?」


 同じ話題で夢中になる二人と違い、普通の感性を持つマドレーヌは、そう疑問を口にした。

 顔を見合わせたカイロとロゼッタは、ゆっくり現在の帝国の実情を口にする。




少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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