第六話「砂被り姫の働き方」中編
キッチンに立つ古代機人のハリエを後ろから眺めているロゼッタは、
ジャガイモ、キノコ、そしてパン。切り分けられた食材を見る。
熱されたフライパンにはすでにベーコンと卵が載せられている。階段を降りてくるときに感じた焼ける音と匂いの正体はこれだった。
「ハリエさん、古代機人なんですよね。どうやって味見を?」
「千年級の個体には、摂取した食事を摂取できる機能を持つものもいる。彼女はその機能で味見をして、さらに燃料を蓄えているんだよ」
古代機人について知識は持っていても見る機会はない。興味津々で眺める彼女に、カイロはさらに続けた。
「卵は好きなタイミングで火から上げたほうがいい。じゃないと彼女はいつも両面固焼きにする」
「わかりました。パンも少し焼いてもいいですかね」
ここで住み込みにさせてもらう以上、お互いの好みや嫌いなものは、把握したほうがいいだろう。ロゼッタは、卵の焼き加減は硬めが好きだった。ああして忠告したならば、カイロは半熟の卵が好きかもしれない。
同じ夢を追いかける者でも、全てが同じわけではない。カイロが早いうちに卵を取り出したのに対し、ロゼッタはハリエが火を止めるまで待った。
テーブルの上には三人分の朝食が並ぶ。
「酢漬けキャベツとチーズ、果物のジャム、トウガラシのペースト、好きなものを追加してくださいね」
「じゃあ、キャベツとチーズを」
「あらあら、カイロと同じ組み合わせが好きなんですね」
実家にいたころは、もっと豪華な朝食だった。真っ白なテーブルクロスの上に並んだ大小さまざまな皿。そこにはパンとチーズ、卵、ここまでは同じ。けれど出てくる肉はブタのベーコンではなくカモの肉で、野菜は酢漬けにされていない新鮮なもの。ジャム、ペースト以外にもバター、クリームも使えた。ブドウ、ミカン、イチゴ、フルーツもあった。
けれど――。
「んっ! おいしい」
「よかった。さすがハリエさん」
「あらあら、お粗末様です」
たとえ場所は違っても、おいしいものはおいしい。使うパンが違っても、ジャムに入っている砂糖は少なくても、腹と心を満たしてくれる。
今日をがんばるための力を、ロゼッタは蓄えた。
「それじゃあ、今日も頑張ってくださいね、カイロ。ロゼッタさんも、この子をよろしくね」
「はい、お任せください!」
「また夕方にきますね」
片づけまで終えたハリエは店を後にする。ここからは、自立の時間だ。
「さて、じゃあ今日はどうしましょう。マドレーヌさんから連絡がこないことには発掘も始まらないでしょうから、お店のお手伝いをさせてもらいますよ」
「うん。でもうちは常に忙しいっていうわけじゃないし、時間があるときはずっと、こいつの解読作業をしているよ」
二人は店に立つ。掃除と埃落とし、店を開いても問題ないことが確認できれば、あとは客が来るまでは暇だ。
それを別のことで解消するわけでもなく、むしろ収益の大半を賄うマドレーヌからの依頼をこなさなくてはならない。
「うーん、なら遺跡発掘の予習として碑文の解析を――」
「ごめんくださいな」
さっそく研究だと息巻くロゼッタの後ろから、声が飛んでくる。
扉の鈴を鳴らして入ってきたのは、一人の貴婦人だった。