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道草

作者: マジコ

 家を出ると日光が照りつけていた。

 時間は10時前、まだ大丈夫だ。

 舗装された狭い道を時々通過する車を避けながら、駅へと向かった。

 家の近くの公園には夏休みだからだろう小学生と思われる子どもたちが木で日陰になっているベンチにたむろしている。お喋りしているようだ。

 公園の横を通って大通りに出ると車の往来が激しかった。自転車も走っている。道の車道側の端を歩きながら今日はとにかく暑いなと思った。この蒸し蒸しとした暑さは地獄の中だ。

 こんな日が何日も続いている。ちらりと見るニュースでは、熱中症による救急搬送が増えているそうだ。無理もない。この暑さの中で過ごしていたら、誰だって体調を崩すだろう。

 この大通りを歩いて行けば駅にそう遠からず到着する。しかし、ここで俺は無垢だが、邪な考えを思いつく。脇道に逸れて少し遠回りして行こうと閃いたのだ。時間はまだあるから問題ないだろう。

 ということで大通りから路地に入った。ちょっとした探検であった。

 この道は初めて通る。普段は何気なく通り過ぎるが、入ってみると何だかソワソワする。道自体は狭いので、2階建ての住宅が迫ってくるようだ。遠くに車の往来の喧騒が聴こえてくる。道で繋がっているのに、まるで、別の物語の世界に入り込んでしまった気分であった。

 静かな道を歩いていると店を見つけた。こんなとこに店があるのかと思った。外観は白を基調としたちょっとしたショップという風情である。周りには他に店はなく、住宅街である。コンビニや中華料理の店すらない。

 気になる。

 店名は入り口の上にカエルの店と書いてある。たぶん、カエルの雑貨でも売っているのだろう。まだ、時間はあるので少し覗いてみようと考えた。大丈夫だろう。

 店に入ってみるとやはりカエルの雑貨が売っている。それは色々と。誰かがデザインしたであろうキャラクター性の高いカエルの人形があったり、リアルなカエルの置き物もある。カエルの意匠をこらした日用品もある。きっと、ここの店主は無類のカエル好きなのだろう。店内は左程広くなく、5人入店したら手狭になる。

 何となく見てると奥から店主と思われる人が出てきた。20代くらいと思われる女性だった。髪はセミロングで背は俺よりも高いかもしれない。意思の強さを感じさせるそんな雰囲気の人だった。

 店主はこちらを見ると静かに微笑みカウンターの裏の椅子に腰を下ろした。ご自由にということだろう。

 色々な商品を物色していると、カエルのキャラクターの指人形が目に入った。それは明るい青さで目を細めている何だか仙人のような風体だった。これを気に入り、買うことにした。カウンターに持っていくと店主は


「包みますか?」


と言うので小さい紙袋に入れてもらった。

 店から出た俺は良い物を買えたと少し上機嫌になった。そして、再び駅へと向って行った。心なしか軽いスキップしているような気分で歩いた。

 また、しばらく歩いているとこの茹だるような暑さに水分が欲しくなってきた。

 丁度良く自動販売機が立っていた。

 りんごジュースが飲みたいと考え、並んでいる品を見る。

 お茶、コーヒー、炭酸飲料、水などがあった。りんごジュースはなかった。

 残念と思いつつ、グレープの炭酸飲料のペットボトルを買うことにした。

 お金を入れて買うと数字が揃うともう一本貰えるくじが回りだした。これで当たったことは一度ある。今回は外れた。

 ペットボトルを取り出し、キャップを開けて飲んだ。

 喉に刺激を心地よく感じた。生き返るというのを実感した。

 蝉が鳴く真夏の陽の下で趣きを感じ、楽しんでいた。今度、プールに行こう。

 そろそろ駅の辺りに出るかなと思い始めた時、雲行きが怪しくなった。ゲリラ豪雨に遭うかなと思い、急いだ。狭い道を突き進み、美容室の横に出た。入ったことないが、前をよく通過する美容室だ。その横は眼鏡の店。馴染みのある通りに来て、探検は終わった少しの寂しさとほっとした気持ちになった。

 ここで雨が降り始めた。それはそれは猛烈な。運が良かったのは直ぐそこにコンビニがあったことだ。急いで入り、ビニール傘を買った。止むのを待っても良かったが、もうそろそろ駅に着かないといけない。たぶん、怒られる。

 傘を差して歩き始めた。雨の独特の味わいのある匂いとむさ苦しいじめじめした空気に季節を感じながら駅に向かった。

 急な雨にずぶ濡れになっている女の人が慌てて走っていた。どこかで雨宿りすれば良いのに。急ぎの用があるのかもしれない。俺も急がないと。

 もう待ち合わせの場所に到着するだろうと考え始めていたら雨は急に止み、空は明るい青空になった。ビニール傘を畳み、駅前のオブジェクトに来た。到着。

 そして、やっぱりもう来ていた。





 

 

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