キューピッドの矢は2本ある
キューピッド、というと弓矢を持った可愛らしい天使のイメージが浮かぶと思います。(某メーカーのマヨネーズのパッケージでも有名ですね)
持っている矢に射られると、恋に落ちてしまう……実生活の中でも、恋愛の橋渡しをしてくれる人を「恋のキューピッド」など比喩することがあります。
「キューピッド」は、ローマ神話の恋の神様「クピド」の英語名。
「クピド」は、ギリシャ神話では「エロス」です。
性愛や、愛を司る神。
天使のキューピッドのイメージとは乖離してしまいそうですが、世界を栄えさせるためには、男女を愛の力で結びつけて、子孫を増やす必要があった……と解釈すれば、それほど遠くはないのかもしれません。
ギリシャ神話の「エロス」は、幼い天使のイメージではなく、美しい青年の姿で描かれています。
キューピッドが持つ矢は2本あり、片方の「黄金の矢」で射られた者は、直後に見た人に惚れてしまう。
もう一方の「鉛の矢」で射られた人は、相手のことが嫌いになってしまう。それぞれ正反対の効果があります。
この2本の矢の特性により、ギリシャ神話の中では様々な悲喜劇が巻き起こります。
ギリシャ神話のエロスは、誤って黄金の矢を自分に打ってしまい、その時に見かけた人間の娘・プシュケに恋に落ちてしまいます。
紆余曲折あった末に、エロスはプシュケに神の酒・ネクタールを飲ませて、プシュケを神様にしてしまう、というエピソードがあります。
この神の酒「ネクタール」の名前から取られたのが、不二家の桃の果実飲料「ネクター」だそうです。
さて、好きになる矢と、嫌いになる矢……初恋の始まりと終わりのメタファーだとか、「蛙化現象」を連想させます。
将来の相手とは、小指と小指が「見えない赤い糸」で結ばれている……なんてロマンチックな表現がありますが、なんで「見えない」のに「赤い糸」って色が分かるんですかね?とかツッコミを入れるのは野暮ってモンでしょうか。
赤い糸に不思議な力がある、という伝承は世界各地にあり、お守りとして手首に赤い糸を巻いたり、幸運を招く儀式として何かに赤い糸を結びつけたり、というのがあるそうです。
「運命の赤い糸」の由来を紐解くと、中国に端を発します。
中国の『太平広記』に収められた逸話「定婚店」では、人間の婚姻を司る不思議な人物・月下老人が登場します。
この老人曰く、男女の足首に決して切れない赤い縄を結び、この縄で結ばれた相手とは距離や境遇に関わらず、必ず「結ばれる運命」になるというのです。
縁談に失敗し続けている男が、老人に「次の縁談はうまくいくか」と尋ねるのですが、老人は「既にお前には、別の相手と結ばれた縄がある」と教えます。
その相手は誰かと問うと、この町にいる3歳の幼女だというではありませんか。
怒った男は、幼女を探して殺すように召使いに命令します(極端だな)。
召使いは幼女を見つけ出し、刃物で刺すのですが、トドメを差すのに失敗しました。
その14年後、男が上司からもちかけられた縁談で、17歳の娘を紹介されました。
娘には傷がありました。幼い時に、乱暴者に刃物で襲われ、傷が残ったのだと。
男は14年前のことを打ち明けて、二人は結ばれたのでした……。
この話自体にもツッコミどころはあるんですが、それより!
「運命の赤い糸」の原典では、「いつか結ばれる男女は、足首と足首を赤い縄で結ばれている」と書かれているのです!
足首! 赤い「縄」! な、なーんか、イメージ違うなあ……足首を縄で結ばれているとか、囚人の脱走防止措置みたいでイヤなんですけど。
イメージとしては、小指と小指が赤い糸で結ばれている方がいいなあ。




