ルームランナーは刑罰だった
来週はもう6月。梅雨の時期です。
そんな時、心強い味方となるのが、屋外の天候に左右されず、ベルトコンベア式で室内で使える運動器具。
スポーツジムでよく見かける、「ルームランナー」とか「ランニングマシン」とか呼ばれているアレです。
私の知人で、体を動かすのがシュミで毎朝早起きしてジョギングを楽しむタイプの人は、
「あれは好きじゃないんだ、景色が変わらないだろ? 回し車の中でジタバタしているハムスターを連想するよ。やっぱり、外で走って、肌に風を感じたいし」
と否定的な意見を述べていました。
あの装置は、英語では「treadmill」と言います。
「tread」が「歩く」、「mill」が「粉砕機」。コーヒー豆を砕く「コーヒーミル」の「ミル」ですね。
このトレッドミル、元々は、囚人を罰するための刑罰の道具として使われたそうです。
1800年台のイギリス、劣悪な刑務所の環境改善の声が上がり、囚人のリハビリ器具として、トレッドミルが作り出されました。
初めて使われたのが1818年。
現在のベルトコンベア式ではなく、回り続ける段差を、同じ場所でひたすら登り続けるイメージ。
巨大な歯車の上で足踏みする感じでしょうか。
その歯車は動力として利用され、風車を回したり、穀物を砕いたり……トレッドミルは、囚人への刑罰を兼ねて動力として活用できる「理想的な刑罰器具」として重宝されることになりました。
ただ、囚人たちにとっては、1日6時間もトレッドミルを回させられたらしく、急斜面の山を6時間歩き続けるような苦行だったとか。
最初は「刑務所内の運動不足解消のリハビリ器具」として構想されたはずのトレッドミルでしたが。
肉体的な疲労も勿論ですが、単調な運動を延々と続ける精神的苦痛や、段差を踏み外した際の大ケガに対する恐怖など、囚人にとって「懲罰器具」としての側面が強くなっていったのです。
1898年、イギリスで刑法が見直されるまで、80年間も囚人たちはトレッドミルの過酷な労働を強いられたそうです。
1900年代に入り、アメリカでトレッドミルの仕組みをベルトに置き換えたマシンが発明され、ジョギングブームもあって「健康的に走るための装置」として、トレッドミルが一気に普及しました。
ジョギングについては、このエッセイの67話「ジョギング中に亡くなった提唱者」でも触れています。
https://ncode.syosetu.com/n2801ib/67/
ちなみに私、コロナ禍に運動不足解消のため、ウォーキングマシンを買ったことがありまして。
「折りたたみ式で、普段は場所を取らずにコンパクトに!」
が売り文句のこのマシン、今では見事にコンパクトに畳まれたまま、埃をかぶっております……。
少しは使わないとな……。




