タカハシさんとサイトウさん
公的な提出書類には自分の名前を手書きで署名するのが当たり前。
先日、そういった書類を扱う知人から聞いた愚痴で、「漢字の微妙な違い」というのを聞かされました。
有名な例では、ヤマザキさんの「ザキ」の字は「崎」の場合が多いですが、右上が「大」じゃなくて「立」になっている「山﨑」さんだったり。
ハマダさんの一文字目が「浜」ではなく、正式には「濱」だったり。
細かい差ではあるのですが、免許証などの身分証明書で確認するので、書類に記入する文字は、旧字体なら旧字体のまま、同一でなければならないのですね。
画数が多くて面倒なので、普段は旧字体ではなく簡単な方の文字を使ってます、という人も多いと思います。
タカハシさんの「タカ」の字が、一般的には「高」の字ですが、「口」の部分が上下と繋がって「目」のようになっている「髙橋」さん(いわゆる「はしごだか」)だったり。
高橋さんの場合は「橋」の字の異体字が意外と多く、「橋」の右上部分が「有」になっていたり、右下部分が「田」になっていたりと、普段はまず見かけないような字のパターンもあるそうで。
単純に、読み方は一緒だけど、字がまったく違うタカハシさん(「鷹觜」「高梁」「高階」「高端」……)もおり、「タカハシ」という名字だけで30種類以上あるそうです!
それを軽く超えるのが「サイトウさん」。
「サイトウ」という発音の名字は、「斉藤」といったお馴染みの字の他にも「西塔」「西東」「西頭」「才桃」「才堂」「済藤」など、同じ読みでも字が違うパターンが80種類以上あるのだとか!
「斉藤」という字にも、「齊藤」「斎藤」「齋藤」などの「斉」の字の細部が異なるバージョンが存在します。
窓口で書類を受け取った職員が、誤りがないか、複数人で内容を確認する時に、この「サイトウさん」は実に厄介な字。
画数の少ない「斉藤」を「ノーマルさいとうさん」と呼んで、基準点とします。
「齊藤」の場合は、「斉」の字の上半分が難しいので「ウエムズさいとうさん」。
「斎藤」の場合は、「斉」の字の下半分が難しいので「シタムズさいとうさん」。
「齋藤」の場合は、「斉」の字の全部が難しいので「ゼンムズさいとうさん」。
そんな風に呼びかけながら確認しているそうです。
そして、レアですが「藤」の字にも「くさかんむり」部分の中央が途切れていて、「十十」となっているパターンが存在します。
くさかんむりが途切れている「藤」は「途切れフジ」と呼び、「ゼンムズさいとうさん、フジは、とぎれふじ!」と、何やら暗号のようなやり取りをしているそうで。
上記の「斉藤」「齊藤」「斎藤」「齋藤」以外にも「斉」の字パターンは多く、ゼンムズさいとうさんの「齋藤」の「齋」の上半分だけが微妙に違う異体字がいくつも存在し、80種類以上の「サイトウさん」のうち、「斉藤」の一文字目「斉」のバリエーションだけで相当あるんですって!
なんでこんなに種類があるかというと、大昔、漢字を登録する時の書き間違いや伝達ミスで、無数の「サイトウさん」が誕生したのだそうです。
こういうので難儀なのが、「電話で字を伝える時」ですね。
「サイトウです。サイトウのサイは、一番画数が多いサイで。えーと、なべぶたの下に、刀と、Yと、氏みたいなのが並んで、その下に示があって……あのう、ゼンムズって言ったら通じませんか?」
すみません、残念ながら一部にしか通じません。




