平和で滅ぶ? 楽園実験
「ネズミ算」とか「ネズミ講」とか、繁殖力が高く爆発的に増えていく動物の代名詞として用いられることの多い「ネズミ」。
他の動物に捕食されたり、人間に退治されたりと外敵も多く、数が減らされてもいいように、多くの子孫を残すようです。
動きが遅く、のんびりと泳ぐ魚のマンボウは、一度の産卵で1億個から3億個以上も卵を産むそうで。
そうでもしないと、大多数は他の魚に食べられて、種族として生き残っていけないからなのでしょう。
さて、どんどん増えていくネズミに話題を戻します。
もしも……まったく「外敵のいない環境」でネズミを飼い続けたとしたら、無限に増え続けるのでしょうか?
こんな実験を実際にした科学者がいます。
1960年代から1970年代にかけて、アメリカのジョン・B・カルフーン博士が行った「ユニバース25」という実験。
別名「楽園実験」とも呼ばれました。
温度は適温に保たれ、水も食料も十分に与えられ、高い外壁で仕切られており外敵は入って来られない環境(同時に、「脱出できない環境」でもあります)。
そこに、オスメス4匹ずつ、計8匹のマウスを入れました。
実験を開始し、100日を過ぎてマウスたちが環境に慣れ始めたあと、やはり爆発的に数が増えたそうです。
数十日ごとに頭数が倍に増えていく期間に突入。
ですが、350日を過ぎ、移住ができない固定された環境の中でマウスたちのストレスが溜まり、ネズミ同士が争うようになりました。
実験を始めてから600日近くが経過し、マウスたちの増加が止まりました。
オスがメスへアプローチしないため、メスの妊娠率が低下、せっかく生まれた子供も、メスが育児をせずに放棄するようになり、数が増えません。
場所を移動しないため、オス同士で縄張り争いすることもなく、激しい行動を一切見せない、穏やかで静かな、交尾もしないマウスばかりになっていきます。
最大で2200匹まで増えましたが、増加のピークをすぎたマウスの個体数は、あとは緩やかに下り坂となり、1780日後には最後の一匹が死亡。全滅したのです。
50年も前の実験が、近年になって注目されています。
この楽園実験のネズミの増加~全滅の推移が、少子化を嘆く先進国の「人間社会」にあてはまるのでは、と言われているのです。
衣食住が満たされ、他者と争って縄張り争いをする必要が無い社会……生物として退廃し、子孫を増やすことをせず、食べて寝るだけの「ニートネズミ」に、人類の在り方も近づいているのでしょうか……?
カルフーン博士の「ユニバース25」は、「25番目」。ユニバース1から24までの実験が存在しました。
このシミュレーションは都市生活のシミュレーションでもあり、巣箱の数やエリアの大きさなども調整しながら行われたそうです。
我々の生きるこの世界は「26番目の実験場」なのでしょうか……?
「ユートピア」という言葉は、16世紀のイギリスの作家、トマス・モアが描いた、作中に登場する架空の国の名前です。
日本語では「理想郷」と書いて「ユートピア」とルビが振られることもありますが、元々「ユートピア」が指す意味を御存知でしょうか。
それは、ラテン語で「どこにもない場所」という意味なのです。




