ルンペルシュティルツヒェン現象について
お化けや妖怪は怖いものですが、まったくの謎でつかみどころがない「なにか」よりは、妖怪などの「解釈」がある方が、気持ちが楽になることがあります。
たとえば、夜、暗い道をひとりで歩いていて、後ろから誰かがついてくる気配がする。
振り返ると、誰もいない。
でも、前を向いて歩き始めると、やっぱり、自分の後ろに「なにか」がいる気がする。
私は小さい頃、怖がりで臆病な子供でしたが、妖怪の本で「べとべとさん」という存在を知って、対策を覚えました。
「べとべとさん」は、人の後ろをこっそりついていって驚かすという妖怪で、「べとべとさん、先へお行き」と道を譲ると、追い越して先に行ってくれる、という対策が書いてあったのです。
まさか、本当に「べとべとさん」がいると信じていたわけではないですが、なんとなく背後に気配を感じて薄気味悪さが消えない夜の道では、「べとべとさん、先へお行き」という“おまじない”を唱えることで、気が楽になったのは事実です。
「対象の名前を知ることで、気持ちが楽になる」効果を、心理学用語で「ルンペルシュティルツヒェン現象」と呼びます。
英語では「ルンペルシュティルツキン」とも言ったりするそうですが、どっちにしても言いづらっ。
ドイツのグリム童話に出てくる妖精の名前から来ているのですが、「自分の名前を当てたら、お前の子供を奪うのはやめてやろう」と人間の女性と約束をした妖精が、森の中で自分の名前を歌詞にちりばめた歌を歌っているのを聴かれてしまい(ウカツだな……)、「お前の名前はルンペルシュティルツヒェンだ!」と言い当てられて、妖精はショックで自分の体を引き裂いて死んでしまった、という話。
童話の妖精が「名前を知られてしまった結果、死ぬことになった」ことから、「名前を知ることで力を失う」という発想となり、名前も何もないような「よくわからないもの」に対する未知の不安というのはどうしても拭えないので、仮でもいいので名前をつけることで、なんとなく対処できたかのような安心感を得る状態を言うそうです。
ずっと体調が悪くて「まさかこれって病気なのかな」と怯えていたけれど、病院で診察を受けて「これは○○という症状ですね」と聞かされるだけで、「ああ、やっぱりそういう病気だったんだ」と、ストンと腑に落ちる気分。
その段階では、治療も始まっていないんですけど、悩んでいた時期よりは、光明が差した気がしているはずです。
解決したわけではないんですけど、問題そのものを特定することで、スッキリする、みたいな感覚でしょうか。




