鬼の娘が出てくる桃太郎後日談
前回「桃太郎」を取り上げましたが、今回もまた「桃太郎」について。
香川県では「実は桃太郎は女の子だった」という話もあります。
男の子みたいに元気な女の子が「若返ったおばあさん」から生まれて、あまりにも可愛らしいので、鬼にさらわれないように「桃太郎」という男の名前をつけて育てた、というもの。
しかも、その伝承が残っているのが、香川県高松市の「鬼無」という土地なのが、なんだか因縁めいています。
さて、「桃太郎」のおはなし。
鬼ヶ島から財宝を持ち帰り、桃太郎はおじいさんおばあさんと幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし、で終わるイメージでしたが……。
江戸時代に書かれた「桃太郎の後日談」が数パターン存在するのです!
市場通笑の書いた『桃太郎元服姿』は、鬼の娘が桃太郎と恋に落ちる話。
桃太郎に宝を奪われた鬼ヶ島の鬼たちは、宝を取り返すために計画を立てます。
鬼ヶ島で若く美しい、赤鬼の娘「おきよ」に白羽の矢が立ちました。
桃太郎を色仕掛けで油断させて、宝を取り戻そうというのです。
海を渡って桃太郎のいる本土へやってきたおきよ。
しかし、おきよは、桃太郎に接近するうちに恋に落ちてしまいました。そして桃太郎と結婚することに。
おきよから、宝の奪還計画の続報がまるで届かない鬼たちは、鬼ヶ島から様子を見に来ました。
そこで、おきよと桃太郎が夫婦になったことを知ります。
鬼たちは「桃太郎を殺す!」と息巻いて、それを知ったおきよは、人間と鬼の争いに耐え切れず、自殺してしまいます。
おきよの死を不憫に思い、悲しんだ桃太郎は、それ以来、鬼退治をしなくなりました、とさ。
決して結ばれぬ悲恋の物語……昼ドラみたいな設定ですが、正直なところを申しますと「鬼の娘がいきなりやってきて結婚!」というプロットは、個人的に「うる星やつら」を連想しました。
まさか桃太郎相手に「ダーリン」とか呼んだり「電撃だっちゃー!」は無いでしょうけど。
明誠堂喜三二が描いた『桃太郎後日噺』は、人間関係がドロドロした泥沼の悲劇。
鬼ヶ島から帰ってきた桃太郎は、たくさんの財宝と、鬼の中でも心優しい青年・鬼七を連れて帰ってきました。
鬼七は、桃太郎の身の周りの世話をする奉公人となりました。
桃太郎の家で働く家事手伝いの若い女性・おふくが、鬼七と恋に落ち、それを知った猿が桃太郎に密告。
財宝の一部を渡して、桃太郎はふたりを祝福してあげます。
ところが、鬼ヶ島から、鬼七の許嫁・鬼女姫がやってきました。
フィアンセである鬼七が、おふくとイチャイチャしているのが許せません。
一方、おふくも「鬼七さん! 結婚相手がいるのに黙ってたなんて! 私をもてあそんだのね!」と、怒りのあまり、鬼の姿に変身します。
(おふくはフツーの人間じゃなかったのかよ、怒り心頭に達するとオニになれるの!? まあ、嫉妬深い人間の女性は、それに近いのかもしれないねえ……)
二人の女から追われることになった鬼七はお寺に逃げ込みます。
「浮気男め、殺してやるわ!」
「いいえ、鬼七さんを殺すのは私!」
鬼女姫とおふくは大激突。
そこで鬼女姫は殺されてしまい、勝ったおふくは、そのまま鬼七を殺しに行きますが、そこに桃太郎が止めに入ります。
桃太郎は鬼七を救うためにおふくを斬り、「密告してきたことが始まりだ」と桃太郎は猿も殺します(とばっちり)。
怒涛の展開、どんな結末かと思いきや、作者が出てきて「ここで話を打ち切ります」という挨拶をして、終了。メタすぎる!
そもそも、桃太郎の話というよりは全然知らないサブキャラを創作したあげくスピンオフ作品って、桃太郎はほとんど出てないよね? 誰だよ鬼七とかおふくとか鬼女姫って!
そんな超絶メタ展開の作者・明誠堂喜三二は、『桃太郎再駈』という作品も書いています。
こちらは、桃太郎が持ち帰った財宝で、おじいさんおばあさんが遊び惚けて堕落三昧という話。
心配した桃太郎は、宝は盗まれて無くなってしまったと嘘をつき、おじいさんおばあさんの目を覚まさせようとしますが、ふたりは「宝が無くなったなら、また持ってくればいいじゃない。鬼ヶ島に行って財宝を取ってきて」と欲望をギラつかせて桃太郎を送り出します。
困った桃太郎はとりあえず出発しましたが、旅先で悪友と知り合い、風俗に誘われて、桃太郎は女を買って、子供が生まれ、その子供を連れて家に帰るのでした。
なんじゃこの話。(「子宝」ってオチなのか?)