お腹は空くものか減るものか?
「お腹は減るものなのか空くものなのか、はっきりさせようじゃないか!」
私の一番の親友である桜雲が、休み時間になるや否や私の席まで飛んで来てこう言った。が、別にどっちでもいいんじゃないの、と私は即答した。
「もう、なんでそんな冷めてるかなぁ。
すぐそんな返しをしてくるの、空ちゃんくらいだからねー?」
おそらく、私じゃなくともこれを聞いた世の大多数の人の第一声は似たり寄ったりになると思うのだが、こいつが私以外と会話しているところを見たことがないので、比較対象は家族とかそんなとこだろう。
……なんとも悲しい話だと思いかけたが、交友関係に関しては私も大差ないので考えないことにした。
「まぁ、とりあえず聞いてよ空ちゃん。私の結論を。」
はっきりさせようじゃないか、と勢いよく言ってきた割にはもう結論が出ているらしい。休み時間は限られているので話が早いのは良いことではあるが、私の話ははなっから聞くつもりがないのか。
「お腹が減る、お腹が空くに関しては正直突っ込みどころが見つからなったの。
だから、別のアプローチをすることにしたんだよ。
ほら、腹が減る、腹が空くともいうでしょ?」
お腹だろうが腹だろうが、突っ込みどころはないと思うのだが……。桜雲は続けて言った。
「今、どっちでも一緒だーって、思ったでしょ?でも、これならどう?
お腹減った、お腹空いた、腹減った、腹空いた……。
ほらほら、一つだけおかしいでしょ?」
まぁ、確かに腹空いた、とはあまり言わないが……。
まさか、これだけのことで「だからお腹は空くものではなく減るものなのだ!」とでも主張するつもりなのだろうか。いやいや、さすがに授業が終わるとほぼ同時に私のところへ駆けてくるぐらいなのだ、きっとこれはまだ序の口でこれからアッと驚くような論理が展開――。
「――だから私は、お腹は減る派をこれから名乗ろうと思う。」
終わりだった。浅すぎるだろこいつ。
「お腹が空く派、特に腹が空く派に対しては戦争も辞さない覚悟だね!」
……そんなことをどや顔で語る桜雲を見ながら、ふとこいつがこんなどうでもいい話を私にするために授業が終わるのを心待ちにし、意気揚々と私のもとへ飛んでくるところを想像すると、なかなかかわいいところがあるように思えた。
……とはいえやっぱり、したり顔で話すのを見ているのは癪だったので、私はお腹が空く派を名乗ろうかな、と。言ってやった。
「えぇっ、なんで!?空ちゃんが裏切るとは思わなかったっ……!」
裏切る以前に、減る派に入った覚えもないのだが、空きっ腹、空腹とかともいうでしょ、と私は返した。
桜雲がそれは考えてなかった、という顔をしたのと同時に、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴った。
――その一時間後、お昼休みには、よほどお腹が空いていたのだろう、桜雲は勢いよく食べ物を口に放り込みながら、減るという言葉はイメージがよくないだのなんだのと、戦争も辞さない覚悟とは何だったのか、見事な手のひら返しを見せていた。
そんなところがかわいいとまた思いつつも、少し意地悪をしてやりたくなり、やっぱり減る派かな……と呟いて見る。目を白黒させながら、「や、やっぱり!?私もそう思ってたとこ!」なんて言い出す桜雲を見て、少し笑った。