アラサーロートル剣士 ~魔法剣や飛ぶ斬撃も放てない時代遅れのおっさん剣士~
とある小さな田舎町モンソン――
目の前には山からやって来る狂暴化したモンスターの群れ。俺は日課としてこいつらを退治する。
ズバッ! ズバッ!
モンスターの首を一撃で跳ねてはまた次の獲物の首を跳ねる。向かって来るモンスターの攻撃を掻い潜り、剣の切れ味を持たせる為に最小限の手数で仕留めて行く。
辺りのモンスターの気配がしなくなると俺は一息つく。
「ふぅ……早朝の分はこんなものかな」
早朝の仕事を終えて俺は町に帰ろうとする。すると町から見知った顔がやって来る。
「よっ、朝っぱらから御苦労なことだなルーデン!」
「俺の心配でもしに来たのかライアン。もう仕事は終わったぞ」
「流石は我らが町の自警団のリーダー様だな! まぁ万が一何かあった時の為の決まりだしな。トーゼン心配なんかしてないぜ! 町一番の剣士様がこの辺のモンスターにやられるワケないしな!」
俺の名前はルーデン。この田舎町で町をモンスターから守る自警団のリーダーを任せてもらっている。
剣の才能を見込まれてそれなりに修行を続け、いつしかこの町を守る為に約十年剣を振るい続けた。
目の前の快活で体格のデカイこの男はライアン。俺に自警団の仕事を奨めて来てくれた男だ。仕事だけでなく個人的にもそれなりの付き合いのある男だ。
今日の仕事は夜の見回りだけだ。俺は帰って一眠りしようとする。
「まぁ待てよルーデン。せっかくだから飲みに行こうぜ!?」
「朝っぱらから酒を飲む気はないぞ」
「そうつれないこと言うなよ。面白い話もあるんだぜ?」
「面白い話?」
酒を飲む気はないがライアンの言う面白い話というものが少々気になる。
「なんでもよ……この町にすっげえ奴が来るみたいなんだ。そいつはまだ二十歳も過ぎてねぇ若い剣士らしいんだがよ……なんと剣からビームが出せるみたいなんだぜ!?」
「……曲芸か何かの間違いじゃないのか?」
剣からビーム……魔法使いの魔法のように剣を杖代わりにするのだろうか。だとしてもあまり有用とは思えない。
魔法は専門外なので詳しくはないが、魔法の使用には本人の魔力とそれを伝える媒体が必要と聞く。その媒体というものが魔法使いの杖先にある魔石などであり、これらは武器として加工するには脆くて向いていないはずだ。
「もしかしたらルーデンよりも強いかもな! ひよっこに自警団のリーダーの座も奪われちまうかもしれねぇぞ?」
「……地位はどうでもいいが優劣をつけるのならば戦うことになるかもしれないな」
どんな奴かは知らないが俺も伊達に十年以上は剣士をやっていない。剣からビームなどという文字通りの付け焼き刃の剣術で遅れを取るようなことはない。
そんな剣士の噂を聞いて俺は町へと帰って行った。
◇
日も照ってきて町もそれなりの人が溢れるようになった頃、何やら騒がしく人が集まってる場所がある。
「なんだ? あの人集りは……」
「オイ、もしかしたら噂の剣士じゃねぇか!?」
人集りの先にある光景を眺める。
そこには若い男の剣士がいた。パッと見た感じでは噂ほどの力があるようには見受けられない。身体もそれほど鍛え上げられてるとは言えないし噂のビームを出す剣とやらも見た限りでは普通の剣だ。
その噂の剣士は俺の視線に気がつくとこちらに近づいてくる。そして相対すると向こうから声を掛けてくる。
「あー、あんたがこの町で最強の剣士だっけ?」
「……この町の自警団長のルーデンだ」
「オレはナッシュ。まぁそこんとこヨロシク」
随分と態度がデカイ男であるがやはりそれを裏付けるほどの力があるのだろうか。
「早速だけどさ……オレと勝負しない?」
「……決闘ということか?」
「オレが勝ったらさ……オレがこの町最強ってことでいいよな? トーゼン俺がリーダーってことで」
「別に構わないが君は私が勝てば何かくれるのかい?」
「んー、勝てたら何でも言うこと聞いてやるよオッサン」
どうやら向こうはやる気のようだ。真っ向から喧嘩を売られて引き下がるわけにもいかないしな。
ここは性根を叩き直すついでに全力で行かせて貰おう。
「……いいだろう。全力で来たまえ」
「んじゃやりますかー。ナッシュ様の剣術を特とご覧あれ!!」
互いに距離を取って決闘を開始する。
付かず離れずの距離を保っているがやはり剣からビームというものが気になる。間合いの外からの不意の一撃にも対処できるように警戒しなくては。
「……どうした? かかって来ないのか?」
「まぁまぁ焦らないでよ。始まったばかりなんだからさ」
どうも様子がおかしい。ナッシュの構えは全然なっていない。素人に毛が生えた程度だ。彼に噂ほどの力量があるとは思えない。
魔法の類いを使うのならば魔力のエネルギーが溜めの瞬間に光るはずだ。しかしその兆候も全く見られない。
観察しひたすらに警戒しているとついにナッシュのほうから動き出す。
「じゃあ遠慮なく行くぜ!!」
ブンッ!
ナッシュはその場で大きく剣を横に凪払う。その様子は空振りしたようにしか見えなかった。
「一体何を――」
ビュオンッ!!
突然目の前に辻切る風らしきエネルギーが発生し俺は咄嗟にそれを剣で弾く。
「……!?」
「いいねぇその反応。鳩がナンとかを食らったって表情してるよオッサン」
攻撃の正体が掴めなかった。少なくとも魔法の類いではないことは確かだが彼の力に関しては認識を改めなくてはならないようだ。
ナッシュは続けて剣を構え今度は数回に渡って剣をその場で振るう。
ビュオッ、ビュオッ、ビュオッ!!
絶え間なく来る謎の斬撃エネルギー。間合いも取られ攻撃も見えないことも相まって防戦一方の状態が続く。
だがそれでもジリジリと前へ向かって行き間合いを詰めて行く。飛ぶ斬撃が厄介でも間合いに入ればこちらのものだ。
そしてついにこちらの剣の射程距離内まで詰める。ナッシュに目掛けて剣を振るう。
「うぉおおお!」
キンッ!
剣筋が弾かれる。完全に見切ったと思われた箇所を狙ったはずが何故か剣で防がれてる。
右手に片手剣一本だけだったはずのナッシュの左手に謎の光を放つ剣が握られている。
「こ、これはなんだ……!? 何もない所から剣が……」
「闘気剣って言うんだよオッサン。こんなの中央じゃ常識レベルだぜ?」
剣を弾いてナッシュは再び距離を取る。そして二本の剣に魔力のエネルギーが込められる。
「遊びはお仕舞いだよ」
そう告げるとナッシュは一気に距離を詰めて剣を振るう。構えや振り方は大したことがなかったが握られた剣には異様なエネルギーが纏っていた。
ボワァッ!!
剣の軌道から炎が溢れ弧を描くように広がって行く。その光景に驚いた俺は一瞬防御が遅れて彼の剣を食らってしまう。
「ぐっ……!」
「ホラホラどうした! さっきから防戦一方じゃないか!」
炎のからくりはわからない。しかし炎そのもののダメージは少ない。視覚的な効果が大きいが怯まず行けば平気なはずだ。
ナッシュの剣筋を防いで俺は全身全霊を込めて剣を振るう。
「うぉおおおおお……!!」
ガキンッ!
俺の剣がナッシュの双剣に当たる。するとその瞬間凄まじい電撃が身体に伝わる。
バリバリバリバリ!!
「ぐわああああ……!!」
電撃に身をやられ俺は膝をつく。剣を手元から落としてしまい完全な敗北となった。
「はいオレの勝ちね。今日からオレがリーダーってことでヨロシク!!」
◇
町一番の剣士ルーデンが突如やって来たナッシュという若い剣士に負けた――その噂は瞬く間に広がって行った。
「オイ見ろよあの若い剣士……あのルーデンに勝っちまったらしいぜ?」
「あぁ……見てたけど凄かったよ。剣から魔法みたいなモンがビュンビュン飛び出してさ……」
「あんなのを食らっちゃモンスターなんかひとたまりもないぜ」
ナッシュの実力は凄かった。町に降りてくるモンスターどころかその発生源であるダンジョンまで攻略できるほどの腕っぷしだったからだ。
「ホラホラホラーっ!! 全員まとめて散りやがれーっ!!」
ピッシャァンッ!! シュゴォッ!! ビュオンッ!!
モンスターも山賊も纏めて一人で相手取る様は俺も含めて町の全員が実力を認めざるを得なかった。
「あいつは最強だな。自警団も俺達もあいつさえいれば必要ないんじゃねぇの?」
「憎たらしいほど強いなあいつは……」
「プライド捨てて剣術を教わってみようかな……」
実力は凄まじかった分ナッシュは横暴であった。
「この町はオレが取り仕切るぜ! オレが最強だからな! オレこそがルールだ!!」
ナッシュは町を我が物顔で練り歩いていた。
「キャ~! ナッシュ様よ~!」
「ステキよナッシュ様~!」
「最強の剣士様~!」
皆の注目を集めるナッシュは警備中の俺に話しかけてくる。
「よぉ元最強の剣士ルーデンさん、見張り御苦労」
「……一体何のようだ?」
「別に? ただリベンジしたいならいつでも受けてやるぜ? オレが勝つけどな! それか教えを乞うのなら少ーしばかり剣術を教えてあげないこともないぜ。頭下げて見るかオッサン?」
「ぐっ……!」
「悔しかったらオレ以上の力を付けるんだな。いやー、この町に来て良かったぜ! ここはオレのパラダイスだ!! アッハハハハッ!!」
……完全に俺の立場はなくなってしまった。
◇
とある日の酒場にて――
らしくもなく酔いつぶれてライアンに愚痴る。
「クソッ……なんであいつが……」
「まぁまぁそう落ち込むなよ。あいつが強いことは確かだけどお前が弱いってわけじゃねぇじゃないか。実際剣術そのものは大したことなかったんだろあいつ」
「そうだけどさ……あいつの技が凄かったんだ。飛ぶ斬撃だったり魔法を纏った剣だったり……それに闘気剣とか言ったか剣さえもその場で作ってやがった。最早剣士ってなんだよってレベルだよ……」
剣士の枠に収まっていない……というか剣士と扱っていいのかアレ?
それにナッシュによれば闘気剣は中央だと常識だと言っていた。中央と田舎とではそれほどまでに差があるということなのだろうか。
「……俺もあんな力があればもう一度返り咲けるのかな」
「ハハッ無理すんなって! 俺達には俺達なりの戦い方ってモンがあるだろ!? そりゃ中央の若い連中は凄いかもしれねぇが俺達も俺達なりに追い付けばいいじゃねぇか!!」
「……お前のそういう所が羨ましいよライアン」
俺はお代を置いて席を立つ。
「オイもう行くのか?」
「あぁ、夜風に当たるついでに町の見回りに行くよ……」
「そんな酔いつぶれちゃお前のほうが危ないだろ! 今日はすぐに帰りな!」
「大丈夫、気をつけて行くよ。今はそうしたい気分なんだ」
すっかりと暗くなった町の見回りをする。こうしていたほうが落ち着くからだ。
確かにナッシュは横暴で傲慢だが実力もあるし実際町のためにはなっている。
こうして若い実力に嫉妬しててもどうにもなりはしないことは薄々わかってはいる。力ある若い世代に託すのが正解なんだということも……こんな剣一本を振るう剣術なんて時代遅れなんだと……
「――俺のやってきたことは無駄だったのか?」
だけどやはり諦めきれない。自分はここで終わりじゃないと思いたい。
ストイックに生きて来たつもりだったがあの日ナッシュに負けて初めて野心というべきものに目覚めた気がする。
「……力がほしいな」
ふとそう呟いた。
半ば呆然としながらフラフラと歩いていると町と山の境界まで来てしまう。
少し前までモンスターが降りてくる危険地帯だった場所がナッシュのおかげで酔っぱらい一人がやって来ても平気になったぐらいだ。
「ハハッ……ナッシュ様々だなこりゃ。こうして安全になったのも――」
ふと視界の先にあるものを凝視する。誰かが山に向かって行ってる所を目撃した。
いくらここらにモンスターが出なくなったとはいえ、山にまで入るとモンスター達を刺激してしまう上に単純に夜の山で遭難してしまう。
「――っ!! 待ちなさいそこの君!!」
俺は山に入る人影を追って走る。
見張り用の松明は持っているが流石に夜の山は暗い。モンスターがいつ襲って来ても大丈夫なように常に警戒は怠らない。
「一体何処に……早く見つけなくては!」
暗がりの中で必死に探す。草木を掻き分けて夜の山を進む。
そしてついにあの人影を発見する。白い服を着た少女のようだ。月明かりに照らされて切り株に腰掛けている。
腰掛ける白い少女に俺は声をかける。
「そこの君、ここにいては危ないよ。早く家に帰りなさい。怖いモンスターも出てくるよ?」
そう声をかけると少女はゆっくりとこちらを向く。その赤い瞳は吸い込まれそうなほどの求心力があった。
「……あなたは?」
「オジサンはルーデンっていうんだ。町の見張りをしている。君も早く家に――」
「ナッシュって子知ってる?」
少女の口からナッシュの名が出てくる。この異様な雰囲気を放つ少女は一体何者なんだろうか。
「……ナッシュは町にいるよ。ナッシュを探してるなら君も町に来ないのかい?」
「そう……あの子は町にいるのね……」
少女は少しうつむいた後に再びその赤い瞳を向けてくる。
「あなた……ナッシュを倒してくれない?」
「…………え?」
少女は俺にナッシュを倒して欲しいと言ってくる。からかってるようにも見えないし返事をしていいのかさえわからない。それにこの娘は人間なのだろうか。
「君は一体……」
「……自己紹介がまだだったわね。私はネザリア。あなた達人間からは大精霊と呼ばれる者の一人よ」
大精霊ネザリア……そう名乗る少女は切り株から立ち上がって空中に浮遊する。
「せ、精霊!? 何でそんな存在がここに……」
「私は力の大精霊なの。本当はもっと強い存在なのだけどあの子のせいで今はこんな見てくれなの。あの子が私の力を奪っちゃったのよ」
何やら相当なことがあったらしい。俺はネザリアに尋ねる。
「一体何があったんだ……?」
「あの子強かったでしょ? 私が教えたのよ。本来はもうちょっと修行するはずだったんだけど……せっかちなあの子は私の力を奪って逃げちゃったの。今の私にはあの子から力を返して貰うことはできない。だからあなたにナッシュをとっちめて欲しいの」
事情は大体わかった。ナッシュを倒してネザリアにその力を返して欲しいということだそうだ。しかし……
「……俺にはできない。一度彼に完膚なきまでに倒されたんだ。もう一度戦っても勝てはしないさ……」
一度敗北してしまっている。そんな俺では彼女の願いを叶えることはできない。
そう答えるとネザリアは俺の前まで来て額に指を当てる。
「大丈夫。私があの子に勝てるようにしてあげる。あの子と同じ修行をすればあなたは彼に勝てるはずよ」
「だけど……俺にはあいつのような能力がない。あんな芸当俺には……」
「……闘気は誰の中にもある。それをどう扱うかというだけ……あなたの中にある闘気できっとあの子に勝てるはずよ」
額に当てられた部分が少し光る。目を閉じて開くとネザリアからオーラのようなものが漂っているのが見えた。
「それは……?」
「あなたにも見えるようにした……闘気の色を。ただ私が直接できるのはここまで……ここからはあなた次第」
そう告げるとネザリアの身体は半透明になって消えて行く。
「消えて行く……!?」
「……今日はここまでみたい。また明日……ここに来てねルーデン」
まるで幻のようにネザリアの身体は消えて行った。
◇
あれから家に帰って一眠りして翌日の朝を迎える。昨日の出来事に実感が湧かない。酔いすぎて幻覚でも見ていたのだろうか。
「昨日のことは夢か幻か……どっちにしろ疲れてるな俺……」
朝食を済ませ担当の町の見張りの仕事に急ぐ。
町の景色は至って平和だ。何も変わらない景色に人通り――
「よお、おはようさん。二日酔いしてねぇか?」
ライアンだ。いつものように挨拶をしてくる。だが目に映る彼の姿はどうにもおかしい。彼の全身を纏うようにオーラのようなものが見えるのだ。
「ライアン……お前何か光ってないか?」
「オイオイ大丈夫か? やっぱり昨日の酔いすぎておかしくなっちまったんじゃねぇの? 今日は休んだほうがいいぜ」
どうやらライアン自身は気がついてない。周りの人々を見てもライアンのオーラらしきものに気にかける人はいない。
俺だけにしか見えてないのか……もしや昨日の出来事は本当だったのか?
「いや冗談だよライアン。ただちょっと体調が悪いのは本当だから夜勤は交代してくれないか?」
「オウ! お大事にな!」
ライアンに夜勤を交代してもらい、俺は今日の夜に再びあの場所へ行くつもりだ。
◇
その日の夜――
再びネザリアがいた場所まで訪れる。すると切り株の上に彼女が姿を現す。
「来てくれたのね」
「夢じゃ……なかったんだな」
「フフッ、ここに来たのはあの子に勝つ為でしょ? 今の私は月明かりの差すごく短い時間でしか存在を維持できないの。あまり時間がないから手短に済ませるわ」
そうネザリアが告げると再び額に指を触れてくる。数秒間に渡って触れ続けた後に彼女は指を離す。
彼女の様子は少し困ったように見えた。
「これは……珍しいわね。あなた闘気の放出量がゼロよ……」
「闘気の放出量……?」
度々口にする闘気という存在に疑問が生じる。ネザリアは悩ませた後に闘気について話す。
「闘気というのは力のエネルギーのことよ。これが高まることで身体能力が上がり、扱い方を学べば身体を纏うように操れるようになるの。その応用で武器に纏わせて魔法剣を作ったり、闘気剣でその場で武器を作ったり、闘気そのものを飛ばして攻撃ができたりするんだけど…………」
ネザリアは恐る恐る口にする。
「どんな生物でも微量の闘気は垂れ流しの状態になるはずなんだけど……あなたの場合は闘気が一つも身体から出て行かないの」
「つまり……?」
「闘気技が全て使えないわ。先天性のもので修行でどうにかなるものじゃない」
闘気が使えないのか……一抹の希望を胸に抱いていたが大精霊直々に言われたら諦めるしかないな。
乾いた笑いが出る俺に対してネザリアはフォローするように声をかけてくる。
「まだよ……! 諦めちゃダメ……! 確かに闘気技は使えないわ。だけど闘気がゼロってわけじゃない。全く放出されないってことは全部身体の内側に溜まってるってことよ!?」
「内側に溜まってたらどうなるんだ?」
「えぇと……こんなケース初めてだから断言はできないけど……つまり理論上は闘気をほぼ無尽蔵に溜められるわ!」
ネザリアは目を閉じて呼吸を整える。すると彼女の周りからオーラが展開される。
「私の真似をしてみて……呼吸を整えて己の魂を燃やすようなイメージをするの」
言われた通りに真似をする。最初の内は特に変化がなかったがしばらくすると身体の内側から熱いエネルギーが湧いてくる。
「目を開けて。そのエネルギーを維持したまま私についてきて」
そう言われて彼女の後に続く。するとそこには巨大な岩があった。そして彼女は告げる
「この岩を一撃で叩き斬って」
何を無茶な……っと、さっきまでの自分なら思っただろう。
不思議とそんな無茶ができるような気がするのだ。俺は剣を構える。
力は満ち溢れているが剣を壊しては元も子もない。ダメージがなるべく少ないように力強く、そして滑らかに流れるような剣筋で――
ズバッ!
気がついた時には大岩は縦に真っ直ぐ切断されていた。
パチパチとネザリアが拍手する音が聞こえる。
「素晴らしいわ。溜めた闘気を全てエネルギーに変えて尚且つそれを扱えるだけの剣術を身に付けているなんて……闘気技が使えないあなたに私がこれ以上教えてあげられることはないわ。あの子との戦いまでに己の闘気を高めておきなさい。きっと勝てるわ」
そう告げるとネザリアの身体は透明になって消えて行った。これが闘気の力……高めることで何処までも俺は強くなれるのか。
◇
翌日――
俺はナッシュの前に立ちはだかっていた。
「ナッシュ、俺と決闘しろ」
「リベンジか? ちょうど暇だったから相手してやるぜ」
「……約束があるからな」
「約束? 何のことだが知らないが返り討ちにしてやるよ!」
互いに剣を構える。己の闘気を高めていると共にナッシュも闘気を溜めていることに気づく。
今度は同じ条件だ。絶対負けない――
すると町の見張りの一人が決闘中の俺達に急いで声をかけてくる。
「大変です二人とも!! 町に向かって新たに沸いたダンジョンからモンスターが向かって来てます!!」
その報告を受けて互いに剣を収める。
「……決闘は後だな」
「命拾いしたなオッサン。さぁて、とっととモンスター片付けちゃいますかー」
急いで報告を受けた場所へ向かう。
◇
ダンジョンから沸いたモンスターはスライム、一角獣、ゴーレム達であった。その全てが輝く水晶の身体をしているリスタール種であった。
先陣を切ったのはナッシュ。得意の魔法剣をモンスターに向ける。
「へっ、キラキラしてるモンスター達だぜ。素材は高く売れるだろうな! 喰らえ!!」
バリバリバリバリッ!!
剣に電撃を纏わせて大きく凪払う。扇状に広がる稲妻がモンスター達を包む。
「よーし、これで制圧完了! 後は帰って――」
稲妻の光が消え巻きおこった砂塵が晴れるとモンスター達の姿が浮かび上がる。依然として輝きを放っており彼の魔法剣が効いていないようだ。
「何っ!? オ、オレの魔法剣が効かないだと!?」
俺は困惑するナッシュに告げる。
「そいつらはリスタール種だ!! 魔法に対して強い耐性がある!! 直接叩き切れ!!」
ズバズバとモンスターを斬り倒す。リスタール種は物理攻撃に対してはそれほど強くない。剣で戦えば苦戦はしないだろう。
ナッシュは魔法剣が効かないことを知ったのか今度は飛ぶ斬撃で応戦しようとする。だがその一撃一撃も表面を掠める程度で大したダメージを入れられない。
「どうした!? 剣で応戦しないのか!?」
「オ、オレ魔法剣や闘気技は得意だけど古臭い剣術はサッパリで……」
「何っ!?」
ナッシュはここでは役に立たない。ならばここは俺一人でもやらなくては!
内なる闘気を集中させて目をカッと開き勇猛果敢にモンスターに向かって行く。
「うぉおおおお!!」
ズバッ! ズバッ! ズバッ! ズバッ!
一撃で次々と真っ二つに斬って行く。辺りのモンスターを全て叩き切ると奥地から咆哮が聞こえてくる。
リスタール種の水晶の鱗を纏い、輝く息を吐く巨大なドラゴン――リスタールドラゴンが現れた。
「お前が群れのボスか」
大きさも他のモンスターとは桁違いだ。だが何としても倒さねばならない。
木や岩を足場にして登り、リスタールドラゴンの首目掛けて剣を振るう。
するとドラゴンの口がこちら側へ向き、そこから輝く炎が真っ正面から吐かれる。
「しまった――」
輝く炎に身を包まれる。だがその高熱の炎に対して怯みはしたものの身体は燃え尽きない。
恐らく内なる闘気が己の身体を頑強にしたのだろう。ならばここは怯まずに剣を手に取る。
「全身全霊を持って叩き斬るっ!!」
ズバッ!!
リスタールドラゴンの首を一刀両断した。
◇
モンスターの群れを撃退し俺達は町へ戻ろうとする。
そしてナッシュはうずくまっていた。様子を見かねて声をかける。
「大丈夫か?」
「ひぃ!? ルーデンさん!? お、お許しを!!」
「……どうしたんだ一体」
ナッシュは俺に向けて頭を地面に擦りつけて土下座する。
「調子こいてすみませんでした!! 自分中央じゃ負け組で……偉い師匠の力も奪って田舎なら無双できるかもって思ったんすよ!! そんな力を持ってしてもオレは今回何にも役に立てなくて……生意気なことばかり言ってすみませんでした!!」
どうやら反省したみたいであった。こんな様子じゃリベンジどころじゃないな。
するとナッシュの付けているブローチが独りでに浮かび上がる。するとそこにはブローチを持つネザリアの姿があった。
「反省することを学んだみたいねナッシュ」
「し、師匠!? うわぁ!? ゆ、許してくださぁい!!」
「ブローチを盗んだことに関しては許してあげるわ。だけど修行は今までの五倍は厳しくいくわよ」
何はともあれネザリアの力とやらも戻ったようだし一件落着だな。
そう思って帰ろうと思った時にナッシュから呼び止められる。
「あ、あの……オレを恨んでないんですか?」
「恨む? どうして?」
「散々調子乗って……生意気言って……肝心な時に何の役にも立てなかったのに……オレに復讐しようと思わないんですか?」
「君は確かに生意気だったけど君の活躍は紛れもなく町の為になっていたよ。私は君の力に一時期嫉妬してたりもしてたけど、こうして自分の力ってものを理解できた良い機会だったと今では思えるよ。感謝こそすれど恨む筋合いはない」
そして俺はナッシュに頼む。
「そして……君にはこの町でこれからも力を振るい続けて欲しい。君の力はこの町の為になるはずだからね」
「ル、ルーデンさん……」
町のほうから呼び声が聞こえてくる。帰りが遅いからかライアンが駆けつけたみたいだ。
「どうした二人とも。そんなとこでじっとして……」
「あぁ、丁度いいライアン。一つ頼みを受けてくれないか?」
「何だ頼みって」
「ナッシュを鍛え上げてくれないか? 闘気の師匠はもういるんだが彼は身体がなってないからな。ビシバシと鍛えてくれ」
「……へ?」
困惑するナッシュにライアンはドンっと胸を張る。
「オウ、任せとけ! 地獄の筋トレメニューを組んでやるぜ!!」
「当然闘気の修行は減らさないわよナッシュ」
「ヒイィィィ!!」
こうしてナッシュはこの町で修行することになった。
◇
数ヶ月後――
俺は身支度をする。荷物を纏めて準備を済ませる。
町は相変わらずだ。人々が行き交い、ライアンとネザリアがナッシュの指導をしている。
俺は三人に会いに行く。
「よぉルーデン。もう行くのか?」
「あぁ、今までありがとうライアン」
「私で良ければいつでも闘気修行つけてあげられるけど?」
「あなたには闘気について沢山教えて貰いました。これから俺は自分の可能性を今からでも試してみたいんです」
「どうかお元気で!! 寂しくなります!!」
「もうその態度が板についてきたな。修行頑張れよ」
俺は自分の力を試してみたくなった。この力が何処まで通用するかわからないが俺はそれでも挑戦したい。
世界には色んな剣術があるのだろうか。世界には色んな達人がいて多種多様の技がある。
俺にはできないけどそんな技達に何処まで太刀打ちできるか知りたい。
俺は剣からビームも出せないが剣士だ。時代遅れのロートルが何処まで通用するか試してやる。
こうして俺は町を巣立った。
最後までお読み頂きありがとうございました!
この話は短編用に纏めたものです。好評でしたら連載用を書きます!
面白いと思った方は是非評価をお願い致します!