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89 茶トラ猫

 昼食のあとはまったりとした時間が流れている。


 食器はメイドさん達が片付けてくれているので俺はみんなにお茶を配っていた。


 子供たちが居ないのはオーブンの状態(じょうたい)を見にいっているからだろう。


 生地(きじ)()ねたりクッキーの形を形成したりと実に楽しそうだった。


 次回からは積極的にお手伝してもらおうかな。


 怪我(けが)しても俺がついてれば大丈夫だし。


 おっ、出来たみたいだな。


 焼きたてのクッキーなんて初めて食べるな。


 「はいゲンパパ。ちゃんとできたよ」


 メアリーからまだ暖かいクッキーが渡される。


 サクッと一口。


 「うん美味しい! 良く出来てるよ」


 「やたっ!」


 メアリーは両手を握り、いつもの可愛いガッツポーズを見せてくれた。


 シロもクッキーを頬張(ほおば)りポリポリいわせながら尻尾(しっぽ)を振っている。


 じつに美味しそうに食べている。


 あちらで踏み台に乗って指示を出していたマリアベル。


 俺と視線が合うと、さりげなくサムズアップしてくるのだった。






 そして次の日。


 よく晴れて気持ちの良い朝を迎えていた。


 朝晩は冷えるようになったが、日中の行楽(こうらく)にはもってこいの陽気である。


 今日はマリアベルと馬を見にいく約束をしている。


 さらに午後からは市場に(くり)り出す予定なのだ。


 朝食を済ませ、出掛ける準備をしていると玄関先に馬車が到着した。


 約束の時間より少し早いがマリアベルが来たようだ。


 今日はローブを羽織(はお)った魔法士スタイルではなく、白を基調とした軽快なパンツルックである。


 お付きのメイドさんを(ともな)い馬車からちょこちょこと降りてくる姿がとてもプリティで可愛い。


 応接室でお茶をしながら一息つく。


 今日の工程や馬場 (放牧場(ほうぼくじょう)) までのルートを話したのち、みんなで王宮馬車に乗り込んだ。


 こちらからは俺・シロ・メアリーが同行する。


 さすが王宮馬車である。みんなで乗っても大丈夫! (100人は無理です)


 ………………


 馬車に揺られること半刻 (1時間) 、王都の外壁に隣接している馬場に到着した。


 ここでは軍馬をはじめ様々な馬が放牧されている。


 馬商人の案内で順繰(じゅんぐ)り見て回った俺は、(やしき)の馬車用に3頭の馬を選んだ。


 引き渡しは20日後。邸へ届けてくれるようにとお願いしておいた。


 その中の1頭はデレクの町に連れていく予定だ。


 インベントリーの()やしになっている例の馬車もぼちぼち修理して使わないとね。






 ここでの用事も済んだので帰るために馬車へ向かっていると、


 放牧場の(さく)の上に居た ”茶トラ猫” がこちらへすり寄ってきた。


 ニャーニャー鳴きながらマリアベルに体を寄せスリスリしている。


 (しかしデカいな!)


 ちんまいマリアベルとの対比がすごいことになってるな。


 ひみつの○ッコちゃんに出てくるボス猫・ドラのようである。


 一方でマリアベルを見ると、なぜか固まってプルプルしている。


 「ん、猫がダメなのか? 大丈夫か?」 


 俺が声をかけるも……。 


 「……チャト? チャトよねぇ」 


 すると名を呼ばれた茶トラ猫もエジプト座りでニャ~と返事をしている。


 マリアベルは猫を抱きしめた。


 というより、猫に抱きついてる感じだな。


 そういえば、以前女神さまが何か言ってたような……。


 使い……、使い魔か! 


 あの時は上手く聞き取れなかったが多分それだ。使い魔だ。


 ってことは普通の猫のはずがないよなぁ。デカいし。






 今は帰りの馬車の中だ。


 あのあと確認したところ、猫は放牧場とはまったくの無関係であった。


 なので連れてきても何の問題もないのだが……。


 ――すんごい存在感(そんざいかん)


 向かいの席にはマリアベルが座っているのだが、猫も香箱座(こうばこずわ)りでどっしりと横に並んでいる。


 マリアベルはニコニコ上機嫌でデカ猫を()でている。


 マリアベルが言うには ”生前可愛がっていた公園の猫” というのがこの茶トラ猫なんだそうだ。


 「何でわかるの?」


 そう(たず)ねると、体の模様(もよう)や鳴き方で分かるのだとか。


 例え親猫や兄弟猫であっても見分けはつくらしい。


 (なるほどね。俺にはどれも同じ茶トラ猫にしか見えないが……)


 名前は ”チャト” というらしい。……またベタな。


 いや、人のことは言えないか。うちのもシロだし。


 (チャト、おまえ(しゃべ)れるだろ。バレているんだぞ!)


 俺はチャトを(にら)んで念話を送ってみた。


 ――すると、


 (にゃにゃにゃ、どーして分かったニャン!)


 ちょっとカマかけたら、もうこれだよ。――まったく。


 まぁいいか。


 (俺はゲン、隣はシロ。そして犬人族がメアリーな。これから宜しくなチャト)


 (わかったニャン。にゃーは『ケットシー』の ”チャト” ニャ。よろしくニャン!)


 香箱座(こうばこずわ)りのまま頭を下げる姿がツボにきて、吹き出しそうになったが何とか耐えた。


 (ほう、ケットシーか。妖精種(ようせいしゅ)になるのかな)






 馬車は王都の繁華街(はんかがい)へ入ってきた。


 まずは表通りの店舗から見ていくようだ。


 馬車を降りた俺たちはぞろぞろと繁華街の店をひやかしながら歩いていく。


 人が多いのでマリアベルは俺が腕抱きにしている。


 メアリーからの視線が少し痛かったが、この人の多さでは仕方ないだろう。


 目に()まった珍しい食材やお菓子をどんどん買い込んでいく。


 そしてメイドさんおすすめの店で昼食を頂き、午後からは裏通りにある青空市場(あおぞらいちば)の方を見てまわった。


 他国から来たという行商人が広げている露天でジャガイモのような物を発見したので即買いする。


 だが、節からは芽が出ており(つる)が伸びている物も多い。


 その行商人いわく、


 これらは家畜(かちく)(えさ)用で、種イモとして売っているのだとか。


 形も不格好(ぶかっこう)だし、人が食べるとよく腹痛を起こすのであまり人気がないのだという。


 俺はマリアベルと目を合わせると二人でニッコリ笑った。


 うん、知らないとそうなるよね。


 中世ヨーロッパでは ”悪魔の植物” と言われていた事もあるぐらいだから。






 市場をめぐると結構な収穫(しゅうかく)があった。


 さっきのジャガイモをはじめ、ニンジン・トウモロコシ・サツマイモなど、タマネギがあったのは嬉しいかぎりだ。


 キャベツも見つけた。


 さすがに王都だよな、市場の規模(きぼ)がまるで違う。


 メイプルシロップも見つけたので樽で買っておいた。


 いや――――っ、満足満足!


 まあ、カカオやコーヒー豆が無かったのは残念だが、こればかりは仕方がない。


 マリアベルもニコニコ顔で、何か見つけては指差していく。


 食材に(とど)まらず雑貨や帽子なんかも購入していた。


 メアリーも俺の手を引き、干し肉やドライフルーツなども買い足していく。


 (久しぶりだったが、市場での買い物も楽しいものだな)


 一刻ほどねり歩いていろいろと買い込んだあと、俺たちは帰路(きろ)についた。


 「もし、チャトの事で揉めたらおばば様にちゃんと相談するんだぞ」


 「うん、わかったわ。大丈夫よ」


 「そうか、じゃあな! ちゃんと歯磨けよぉー!」


 俺たちをアラン邸に送り届けたマリアベルは、馬車から降りずにそのまま王城へ帰っていった。


 玄関先でマリアベルを見送ったあと屋敷に入ろうとしていると、


 服の(すそ)を横からチョンチョンと引っぱられた。


 んんっ、どした?


 振り向くとメアリーが両手を広げて待っている。


 そっか、我慢してたんだな。


 俺はメアリーをひょいっと抱き上げるとゆっくり屋敷へ入っていった。





     ▽





 それから30日が過ぎた。


 いよいよ自分の屋敷へ引っ越す時がきたのだ。


 屋敷で働いてくれる家人(かじん)もすべて(そろ)っている。


 まず、家宰(かさい)であるシオンを筆頭(ひっとう)に執事1・メイド6・馬丁(ばてい)2・馭者(ぎょしゃ)1・庭師1・コック3・門番2・下男が数人となかなかの大所帯(おおじょたい)である。


 それから散々お世話になった大公(たいこう)家へのお礼なのだが。


 いろいろと迷ったのだが、胡椒(こしょう)とタオルセットを贈ることにした。


 胡椒は白と黒を小分けして密閉容器(みっぺいようき)に入れ100セットずつ。


 タオルセットの方は バスタオル・フェイスタオル・ミニタオル・バスマット・枕カバーをそれぞれ100枚ずつ。


 さらに、温泉施設で人気だったバスローブも大小50着ずつセットにして贈った。


 これにはアストレアさんも大喜び。逆に感謝されてしまった程だ。


 同時にアランさんの居るクドーの町の本邸にも1セット、王宮には3セット、おばば様の居る別館の方にも1セットしっかりと送っておいた。


 移動を明日に控え、荷造りなどせっせと準備を進めていると……。


 メアリーが以前のように、捨てられた子犬のような目をして(そば)を離れないのだ。


 (やっぱりこうなってしまったか)


 今日までに何回もお話して、納得はしていたはずなだがな……。


 仕方がないのでアストレアさんに相談したところ、


 「あらっ、連れて行ったらいいじゃない。……でも、あの人が来る時には返してね。連絡するから」


 ――だそうだ。


 アストレアさん自身は(さび)しくないのかと(うかが)ったのだが、


 「それは寂しいわよ。でもね、もうじきしたら上の子がこちらに来るのよ。来年から貴族学校へ通う事になってるから。それに温泉行くときも誘ってくれるんでしょ?」


 微笑(ほほ)みながら返されてしまった。


 そうか学校か。


 メアリーも10歳になったら通うんだよな。頭に入れておこう。



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