表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/107

75 娶る?(めとる)

 「そうかい、そうかい、あの子のことを助けてくれたんだねぇ。ずっと行方知(ゆくえし)れずで心配していたんだよ、本当にありがとねぇ。あの子も……、あの子の母親もただ巻き込まれただけなんだよ。まったく忌々(いまいま)しいったらありゃしない」


 「巻き込まれた? 病死とかではないんですか」


 おばばさんの言葉に、つい聞き返してしまった。


 「…………」


 「…………」


 「おまえさんなら大丈夫だろうから言うけど、ここで聞いたことは他言無用(たごんむよう)だよ。わかったかい!」


 おばばさんの目を見て俺は大きく頷いた。


 「あの子の母親は毒殺(どくさつ)されたのさ。それも大公(たいこう)の足を止める為だけにね」


 「――――――!」


 俺は怒髪(どはつ)天を()形相(ぎょうそう)となった。


 そんな鬼神のような顔をした俺におばばさんは、


 「これこれ、気を(おさ)えなさいな。ここで怒っても何も始まらないだろ」


 「こ、これは失礼しました。(よろ)しければ、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」


 「まったく、(すさ)まじい気を出しおってからに。寿命が10年縮まったよ。あたしもそこまで詳しくは知らないけれど話してやろうかね」






 おばばさんが言うには、


 メアリーの父である大公(たいこう)のアラン・ジ・クルーガーは当代国王の実弟(じってい)であり、王都(おうと)の北に位置する都市クドーを納めている。


 そしてダンジョン・カイルで取れた物資などはこの都市を通り王都バースへと運ばれているそうだ。


 一方、迷宮都市(めいきゅうとし)カイルは王国の直轄地(ちょっかつち)でありながら、以前よりさまざまな不正(ふせい)が横行しているという。


 これに対しては王国側でも目を光らせており随時(ずいじ)取り締まりを行っているようだ。


 しかし、いくら取り締まったところで出てくるのは状況証拠(じょうきょうしょうこ)ばかり。


 これでは上の者を処分しようとしても如何様(いかよう)にも言い逃れができてしまう。


 そう、物的証拠(ぶってきしょうこ)が出ないよう組織的(そしきてき)に不正が行われていたのだ。


 王国側もこれにはホトホト手を焼いていたようである。


 ………………


 しかし、こちらも黙って指をくわえていた訳ではない。


 アラン大公は間者(かんじゃ)を幾人も潜り込ませていたのだ。


 そしてかねてからの裏付け捜査(そうさ)により、その物証(ぶっしょう)の一部を押さえるに至ったのである。


 着々と準備を整え、あとは迷宮都市カイルへ乗り込むだけの段階(だんかい)であった。


 勿論(もちろん)査察(ささつ)に入ることは極秘(ごくひ)に進めていたのだが……。


 ぎりぎりのところで計画が露見(ろけん)してしまった。


 ヤツらは乗り込もうとしていた大公の足を一時的に止め、その(すき)に関係していた(ほとん)どの者を処分(しょぶん)し入れ替えてしまっていたのだ。


 それで、その(わず)かな時間を(かせ)ぐため利用されたのが、


 メアリーの母であるエレナだったのだ。


 アラン大公 最愛の側室(そくしつ)(うわさ)にあるエレナならば効果(こうか)絶大(ぜつだい)だろうと踏み、敵の矛先(ほこさき)が向いてしまったのだろう……と。


 (そういう事だったのか……)


 これはおしおき(・・・・)どころの騒ぎじゃないな。


 できることなら、俺がカタをつけたいところだが……。






 エレナが何者かに殺害 (毒殺(どくさつ)) されたことで大公家は大混乱。


 それで何を思ったのか、当時の家宰(かさい)はエレナの一人娘であるメアリーにも危険が(およ)ぶと判断。


 執事(しつじ)であるジョージと共に身を隠すように指示を出してしまったのだ。


 ある程度の期間は如何(いか)なる連絡も避け、身を(ひそ)めるようにと言い渡していた。


 「…………」


 (これって、もう少しなんとか出来たんじゃないのか?)


 いや、当時はパニックだっただろうし。


 もしかしたら本当に刺客(しかく)が差し向けられていた可能性もあるのか……。


 今さらいろいろ詮索したところで詮無(せんな)きことではあるか。


 「まあ、事の顛末(てんまつ)はこんなところさねぇ。ところで坊やだろう、ダンジョンがどうのって王妃(おうひ)(うわさ)していた……」


 そう言われて、自己紹介もしてない自分にハッ! となった俺は念話(ねんわ)でシロを呼ぶ。


 ……って、あれ、


 いつの間に来ていたのか? シロは俺の椅子のよこで伏せをしていた。


 そう、先ほどゲンが気を吐いた際、シロは心配して駆け付けていたのだ。


 椅子から立ちあがった俺は、あらためて(ひざ)を突き貴族礼(きぞくれい)をとった。


 「失礼いたしました。俺はゲン、そして隣が従魔(じゅうま)のシロです。どうぞお見知りおきを」


 「ほうほう、やはりそうなのかえ。あの子が熱心(ねっしん)に話していたからねぇ。良かったら私も温泉に連れていっておくれ。最近は腰が痛くてねぇ」


 ということで、ご挨拶(あいさつ)がてら温泉へ連れていくことになった。






 そして翌日。


 昼食を済ませ部屋で待っていると、おばばさんが(たず)ねて来られた。


 ――それは大勢(おおぜい)引き連れて。


 なぜか王妃(おうひ)様の姿も見えている。


 「…………」


 まぁ気にしちゃダメなやつだろう。


 そして俺たちは女性ばかり10名の団体さんと温泉施設(おんせんしせつ)へ転移した。


 「へぇ、本当に来ちゃったよ。涼しいねぇ、大したもんだ」


 おばばさんはとても嬉しそうである。


 いつものように人数分の石鹸やバスタオルなどをメイドさんに渡していると、


 「ささっ、こちらですよ おばば様」


 王妃様が自ら案内している。


 「ここの温泉はホントにすごいんですよぉ。お肌なんてプルップルですから!」


 いろいろ話しながら脱衣所(だついじょう)の方へ入っていった。


 まあ、おばば様のことは王妃様にお任せして大丈夫だろう。


 俺もササッと身体を洗って露天風呂(ろてんぶろ)の方へ向かう。


 身体を洗い終わったシロや子供たちはすでに湯舟で泳いでいる。


 シロが教えたのか、みんな(そろ)って犬かき(・・・)である。


 まぁ水飛沫(みずしぶき)も飛ばないし……、いいか。


 俺も掛かり湯をして温泉に()かる。


 あぁ―――――――っ、温泉はいつ入っても良い。






 「どれどれ、おじゃまするよ。ここは良いところだねぇ、あたしゃ気にいったよ」


 おばば様が女性全員を引き連れて露天風呂(ろてんぶろ)になだれ込んできた。


 おぉ~素晴らしい…………って、もうだいぶ()れてきたな。


 しかし露天風呂を大きく作った俺グッジョブ!


 心の中でガッツポーズをしておく。


 「この露天風呂からの(なが)めはまさに絶景(ぜっけい)だねぇ」


 そうおばば様も言ってるが、俺はこの露天風呂の中が絶景です。


 今日はおばば様も(まじ)えての裸のおつきあい(・・・・・・・)である。


 こういった解放感のある場所では普段(ふだん)では聞けない話なんかも飛び出してきたりする。


 これがなかなかに有意義(ゆういぎ)だったりするんだよね。


 「ところで、お前さんゲンとか言ったねぇ。クドウという男を知っているのかい」


 「いやね、この建物はログハウスってんだろう? あっちの打たせ湯とか足湯なんかも聞いたことがあってねぇ」


 どうやら、おばば様は工藤本人を知っているようだ。


 「直接お会いしたことはないんですがね。実は…………カクカク・シカジカ・マルマル…………なんでして」


 と以前発見した洞窟(どうくつ)の事を話していった。


 「なんだい、そりゃあ。キツ――――イやつを一発かい!」


 カカカカカカッ! 笑って聞いてくれた。


 そしておばば様は、向こうで子供たちと遊んでいるメアリーを優しく見やってから、


 「あの子と別れないで済む方法はあるよ。もっとも、あんた次第なんだけどねぇ」


 (えっマジで。そんな方法があるの?)


 俺は是非(ぜひ)にと先を(うなが)すと、


 「これはまだ(おおやけ)にはされてない事さね。モンソロの町に近い所でダンジョンが発見されたのさ。発見者の名前が確か『ゲン』だったようだけど……、お前さんのことだろう?」 


 その問いに俺はゆっくりと頷いた。






 「そうすると、まず間違いなく叙爵(じょしゃく)はされるよ。それにここの功績(こうせき)も大きいはずだから陞爵(しょうしゃく)もして……、順当にいって子爵(ししゃく)あたりかねぇ。じゃあ、ぎりぎりいけるんじゃないかえ」


 なにやら小声で王妃様と話をしている。聞いてる王妃様も笑顔で頷いているし……。


 ンンン、どゆこと?


 不思議(ふしぎ)そうな顔をしている俺に、


 「なんだい(かしこ)そうなのに、まーだ分からないのかい。あんたが(めと)る (もらう) んだよ!」


 ――もらう?


 ――娶る(めとる)


 妻取る(めとる)ってことかぁ――――――――っ!


 俺はつい興奮して立ち上がってしまっていた。


 んっ……。


 (われ)に返ると皆の視線(しせん)が一点に集中している。


 「…………!」


 イヤ~~~ン! 


 両手でアソコを隠して静かに湯舟(ゆぶね)に沈んでいく。


 とんだ羞恥(しゅうち)(さら)してしまった。(赤面)


 そこやめてぇー、品定(しなさだ)めするようにコソコソ話しをするのは。


 「…………っと言うわけじゃ。しかし、アラン坊も子煩悩(こぼんのう)だからねぇ。なかなか首を縦に振らないだろうけど、そこはこのおばばに任せておけばいい」 


 何もなかったようにタンタンと話を進めるおばば様。なんかかっこいいっす。


 温泉でのぼせないようにと、度々湯からあがっては冷たいアイスティーや特製(とくせい)ミルクセーキなどを提供していく。


 小腹が空いたと聞けば、おやつ代わりにクレープなどを振舞(ふるま)った。


 「極楽、極楽、これでまた長生きできそうさねぇ」


 などと言っているおばば様。


 昨日、寿命が10年縮んだとか言ってたからちょうど良かったんじゃないの。――ハハハハハッ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on挿絵(By みてみん)
プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押して。押して~!
小説家になろう 勝手にランキング
シロかわいい! と感じたら押してください。シロが喜びます。U•ɷ•)ฅ
挿絵(By みてみん)
作:管澤捻 さま (リンク有)
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ