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72 甘味こそ正義

 冒険者ギルドにて俺の移動手続きとナツの冒険者登録はスムーズに進んだ。


 手続きが終わる頃にはギルド内はいつもの喧騒(けんそう)を取り戻していた。


 冒険者ギルドを離れた俺たちは、城からついてきた執事(しつじ)さんに連れられ、次の目的地である防具屋へ向かっている。


 この執事さん、王妃様の計らいで付けて頂いた方なのだ。


 さっきの冒険者ギルドをはじめ、こうして案内してもらえるのは非常に助かっている。


 だって城から見渡したら、この王都ってめちゃくちゃ広いんだよね。


 1年住んでたとしても迷う自信がある。案内看板を作ってくれないかな~。


 店の入口で従魔(じゅうま) (シロ) も店に入れていいかと(たず)ねると商品に触れなければ問題ないそうだ。


 店に入るとさっそくカウンターへ行き、子クマ姉弟(きょうだい)を前にだす。


 「この子たちに合うローブを探しているのだが?」


 「いらっしゃいませ。ローブですね、少々お待ちください」


 すると店の従業員はカウンターから出てきて店の奥へと入っていく。


 そして衣紋掛(えもんか)けに掛かっていたいた子供用のローブを数点チョイスすると、戻ってきてカウンターの上に広げてくれた。


 ひとつは以前見たことがあるバイホーンバッファローのローブだ。


 それにブラックディアーのローブ (黒色) 。もうひとつがオーガのローブ (苔色(こけいろ)) だった。


 お店の従業員さん(いわ)く、オーガのローブがおすすめだそうだ。


 まず丈夫であるという事。撥水性(はっすいせい)も高いし、風魔法に耐性(たいせい)があると言うことだ。


 (ほるほどなぁ)


 使用感を聞いてみたり、子供たちの身体にあててみたりして検討(けんとう)していく。


 もちろん鑑定することも忘れない。


 やはりバイホーンバッファローは重かったな。これでは子供がかわいそうだ。


 ということで、あとの二つで迷ったのだが結局おすすめのオーガのローブに決めた。


 サイズ調整をするため先に清算する。


 ローブ2着で35,000バースになった。


 「えっ、35,000バースって……あんた」


 さすがにこの金額にはナツもびっくりしていた。


 俺から言わせれば、


 あんな山奥にいてもなお、しっかりとした金銭感覚を身につけているナツにびっくりですけどね。


 まあ、メアリーのローブだって普通に買えば25,000バースはするのだ。


 それに王都という事を加味(かみ)すれば妥当(だとう)な価格だと思うんだけどなぁ。


 カウンターに金貨3枚、大銀貨5枚を置くとお店の従業員さんは子供たちにローブを着せていろいろメモをとりだした。






 それを横目に今度はナツの装備を見繕(みつくろ)っていく。


 ビキニアーマー?


 いいね~。似合いそうだし是非(ぜひ)に……、とはならない。


 露出が多くて見てる分には嬉しいが。


 実際には有り得ないでしょう、肌を(さら)すことなんて。


 腹を切られたら内臓飛び出ちゃうよ。


 なので、そんな過激(かげき)な夢コスプレは捨てて堅実(けんじつ)に選んでいくことにする。


 ベースの女性用の鎧下(よろいした)ウェアに革パンツ。


 革のアーマーは下の(すそ)が広がっておりミニスカートのようになっている。


 大きめのバックルが付いたベルトには主にクナイやポーションケースを装備させる。


 手や腕にはミトンやアームガードではなくガントレットをチョイスした。


 革がベースだが指や手の甲などは鉄板で補強(ほきょう)されている。


 (熊の一撃。これで殴られたら痛いだろうね~)


 足にはすねあてを付ける。こちらも鉄板で補強されたヤツだな。


 そして最後にヘルムなのだが……。


 散々迷った末、チェインヘルムに耳加工を(ほどこ)すようにした。


 そこはやはり獣人である。


 聴覚(ちょうかく)が鈍るのを嫌ったのだろうか……。


 って、上の耳ってお飾りだよね! 聞こえてないって言ってたじゃん。


 しかしまあ、獣人としての矜持(きょうじ)なのかと思いなおす。


 それにチェインヘルムって首までガードしてくれる優れものだから。



女性用の鎧下ウェア      3500

革パンツ           4500

革のアーマー・スカート付き  18000

バックルベルト        6000

ポーションケース        500

ガントレット         9000

すねあて鉄板補強       3000

チェインヘルム熊耳加工    10000

______________________


合計            54,500バース



 ポーションケースはサービスしてくれるようだ。カウンターにて金貨5枚、大銀貨4枚を支払う。


 そして店の裏を借りて装備を身に着けて出てくる。


 お店の従業員さんはあれこれ見まわしてはメモをとっていく。


 そしてチェインヘルムの手直しが5日、その他の物は2日で調整が出来るとのことだった。


 では5日後に取りにくることにして預かり証を受け取った。






 防具店を出た俺たちは、昼食をとることにした。


 大通りをしばらく歩いていくと噴水(ふんすい)のある大きな広場に差しかかった。


 何だよこの広さ、モンソロの中央広場なんかとはまったく規模(きぼ)が違う。


 そして出歩く人の多いこと。昔行った秋葉原のホコテンを思い出してしまった。


 流石(さすが)に着ぐるみやメイド喫茶の呼び込みなんかはいやしないが……。


 お店の数も多いし、これでは逆にどこに入ったらいいのか分からない。


 今度、お城に居るメイドさんにでも聞いてみよう。


 そうメイドさん。ビバ! メイドさんだ。


 残念ながらミニスカメイドは居なかったが、初めて目にした本物のメイドさんに感動してしまった。


 楚々(そそ)とした立ち居振る舞いに、


 えっ、()たの? と驚いてしまうほどの気配の消し方。


 どれをとっても『ザ・メイド』なのである。


 あまりに洗練(せんれん)された(さま)に見とれていたら、ナツに太ももを思いっきりつねられてしまった。ハハハハハッ!


 あっ! いかんいかん昼食だったよな。


 串焼き屋などの露店(ろてん)が広場を囲うように出ていてとても(にぎ)やかだ。


 俺たちは噴水にほど近いベンチに陣取ると、それぞれみんなに銀貨1枚を渡して好きな物を買ってくるように(うなが)した。


 俺はみんなが戻るまでこのベンチをキープ。メアリーには護衛としてシロを付けた。


 俺とシロの分は後で一緒に買うようにしている。


 しばらく待っていると、散っていたみんながいろんな方向から帰ってくる。


 パンに焼き菓子の包みと果実水(かじつすい)の入ったコップを持ったメル。


 満面の笑顔で両手に串焼きを持ったガル。


 その後ろからはナツがトレイを持って帰ってくる。


 肉と野菜が(はさ)んであるコッペパンのようなものと……。


 んっ、これはコンソメスープかな? トレイに乗せたカップからは湯気と共にいい匂いが立ちこめていた。






 おっ、メアリーもシロと一緒に戻ってきたな。


 両手で持った木のトレイには大好きな串焼きが2本と果実水の入ったコップ。


 それに、きれいなお花が(いく)つかのっている。 


 んっ、メアリーはお花が好きなのかな?


 ――やっぱり女の子なんだなぁ。


 するとメアリーは持ってきたトレイをベンチに置くと、


 花を一輪とって、「はい、ゲンパパ!」と俺に。


 もう一輪を、「はい、ナツママ!」とナツに。


 そして最後の一輪を、「これは大好きなシロ(にぃ)のだよ」とシロの赤い首輪に差し込んでいた。


 おおい、不意(ふい)にこんな事するんじゃない。


 俺は涙腺(るいせん)が弱いんだからなぁ。


 なんとか涙をこらえながら、


 「ありがとう。ありがとう」と何度も頭を()でてあげた。


 すると隣りに居たナツも、


 「わぁうれしい! 綺麗なお花をありがとね」


 (ひざ)を折りメアリーを抱きしめている。


 シロも上機嫌のようで尻尾を振っていた。


 そして俺に向かって ワン! と一吠えすると(きびす)を返した。


  「――――?」


 ああ昼めしな。わかったわかった!


 『花よりだんご(・・・)』のシロちゃんであった。 まぁ犬だからね。


 俺はシロを連れちゃちゃっと買い物を済ませベンチへもどる。


 「ほらっ、今度はちゃんと自分で買うんだぞ」


 食べ物しか買ってこなかったガルに果実水を一つ渡し、みんなで楽しくお昼を過ごした。






 俺たちは王城に戻ってきた。


 部屋でゆっくりしようとしているところを拘束(こうそく)されてしまった。


 捕まったのは俺だけ。


 えっ、あれっ、なんで?


 二人のメイドさんにうむを言わさず(わき)を抱えられ……、


 ではなく、両腕に抱きつかれて笑顔で連行されていく。


 それで連行された先はメイドさん達の(まかな)厨房(ちゅうぼう)だった。


 7人いる部屋付きメイドさんに懇願(こんがん)されある物(・・・)を作らされる羽目になった。


 メイドさん達のご所望(しょもう)はグラニュー糖をたっぷりとまぶしたシュガードーナツ。


 昨日のことになる。


 あれから服装を直された俺たちは王妃様(おうひさま)に呼ばれ一緒にお茶を頂いていた。


 その折に「よろしかったらお茶うけにどうぞ」とシュガードーナツをお出ししていたのだ。


 たった一度だけである。


 それをしっかりチェックされていたようで、メイドさん達のあいだにはかなりの衝撃(しょうげき)が走ったという。


 確かに王妃様のウケもプリンの時よりか良かったような気がするな。


 それに差し出した際、上にかかってる粉は何かと尋ねられたので「それは砂糖ですよ」とサクッと答えたにもかかわらず衝撃を受けた時のような顔をされていたなぁ。


 「…………」


 ああっ! そうか。砂糖か! 


 たっぷりかかった真っ白な砂糖に目を奪われてたんだ。


 俺が育った60年代はケーキ・饅頭・生菓子(なまがし)はどれもかなり甘かったような。


 そういえば30㎝もある饅頭(まんじゅう)なんかも売っていたよなぁ。(成金饅頭)


 あの時代はバンバン売れていたのだ。


 砂糖に()えていた。いや甘味に飢えていた。


 つまり甘味こそ正義なのだ。


 だから、砂糖が出まわってないこの世界においてはプリンやゼリーなんかよりも砂糖をたっぷりまぶした、このシュガードーナツこそが王道なのだろう。


 じゃあメイプルシロップたっぷりのホットケーキなんかも喜ばれるはずだな。


 ――フフフッ♪ これで勝つる! (何にだよ!)


 まぁいいや。手早くササッと作ってあげよう。


 なんてったってメイドさんの頼みなのだ。


 これから行う交渉(こうしょう)のためにも、王妃様やメイドさん達の心をここでガッチリと掴んでおくことは重要だよね。



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