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31 アーツ


 アーツ先生は怪訝(けげん)な表情で俺を見ている。


 「これは、どういうことだ!」


 ひゃー、アーツ先生怒ってます。――激オコです!


 「亡くなられた騎士の方3名はあちらに(ほうむ)られています」


 街道の脇、少し離れた場所を右掌(みぎてのひら)で示した。


 アーツ先生とその場所まで進み盛り土に向かって俺は手を合わせる。


 3秒ほど黙祷(もくとう)(ささ)げたあとアーツ先生と向き合った。


 「俺にはいろいろと秘密があります。それらを今すべてお話しすることは出来ません。これから起こる事も内密にお願いします」


 そう前置きしてからオークジェネラルの亡骸(なきがら)をインベントリーから取りだした。


 「こっ、これは……、本当だったのか」


 「はい、俺が魔法で止めを刺しました。あとのオークはすでに解体しており、各部のパーツはあるのですがオークそのものを出すことはかないません」 


 アーツ先生は未だに呆然(ぼうぜん)としたままだ。


 「毎朝の訓練においてアーツ先生に教わった戦い方や貴族への礼のとり方(・・・・・・・・・)など、こんなに早く使うことになるとは思いませんでした」


 「ははっ、はははははっ! お前が何者なのか聞いたところで答えられんのだろう? 悪いヤツではないことは分かるぞ。もう何日も指導しているのだからなぁ」


 「……ありがとうございます」


 「そうかぁ、教えたことが役に立ったのだな……。これからもみっちりしごいてやるから覚悟しておけ!」 


 「はい、よろしくお願いします!」


 この度量の大きさに自然と頭が下がってしまう。






 俺はオークジェネラルを再びインベントリーへ納めシロの首に付いている鑑札を外した。


 人の気配がないことを確認して、シロにフルサイズの『フェンリル』になってもらった。


 その瞬間、アーツ先生は5m程後方へジャンプして長剣を抜き放っていた。


 「大丈夫です。これはシロ(・・)ですよ」


 俺はアーツ先生に向かってそう言ってやると……。


 ………3秒程フリーズしたのち剣を鞘に納めた。そして、


 「ハハハッ、ハハハハハッ!」


 両手を広げ目を輝かせながらシロに突っ込んでいった。


 「…………」


 俺はその光景を眺めながら、


 あ~ぁ、その顔は見せてはいけないやつだよなぁ。――よだれよだれ!


 アーツ先生は重度(じゅうど)のケモナーだったようだ。


 ………………


 俺はしばらくの間放置(ほうち)することにした。


 そうして10分ほど時が過ぎ、ようやくアーツ先生は戻ってきた。――2つの意味で。


 「その……、ハハハハハッ! びっくりしてだな~」


 いやいやいや、もう無理です!


 よだれを(ぬぐ)いながらそんなことを言われても……。


 こやつは今からアーツね。――アーツ。


 「先生、今から『アーツ』って呼びますから」


 「うっ、おっ、おう!」 


 アーツもバツが悪かったのか下を向いて呟くように答えていた。






 「そろそろ夕方になるな。野営(やえい)するなら良い場所があるから案内するよ」


 「そうだな、今日のところは野営して明日の朝から周辺を探索(たんさく)するとしよう」


 「じゃぁ、シロ。二人乗るからいつもより少し大きいぐらいがいいかな」


 「ワン!」


 「さっ、後ろに乗ってくれ!」


 「の、乗ってくれって……。乗れるのか? フェンリルに」


 俺とアーツはシロの背に(またが)りいつもの森の丘へ向かった。


 「さあ、着きましたよ。野営の準備をしましょうか」


 「俺は竈をこしらえて火を起こすからアーツは(まき)をお願いしてもいいか?」


 「お、おう! 薪だな」


 実をいうと、町を出て襲撃現場に達する道すがら(かまど)作りに使えそうな石をインベントリーに吸い込んでいたのだ。


 何回も使えるようにしっかりと竈を組んでいく。


 すると、高さ40㎝程の立派な竈が出来あがった。


 さらにテーブルや椅子をはじめ鍋や皿などもも出していく。


 あとは薪を取ってくれば調理することができるだろう。


 それじゃ俺も薪拾いに参加しますかね。


 シロに留守番を頼むと俺は背負い籠(せおいかご)を担いで森の丘を下っていった。






 俺が薪を集めて帰ってくるとアーツもすでに戻ってきており、竈からは薄っすらと煙が立ちのぼっていた。


 「火を点けてくれたんだな、助かるよ。ありがとう」 


 食材をテーブルへ出していきスープを作りはじめた。


 水が入った寸胴鍋を火にかけ、まな板の上で肉や野菜を切っていく。


 二人で楽しく話しながら料理を作っていく。


 だいぶ日も暮れて来たなぁ。


 スープが出来あがったので今度は厚く切った肉に長串を差していく。


 そうして、肉の両面に岩塩(がんえん)を擦り付け豪快(ごうかい)に焼いていく。


 シロ用の肉は何もつけずに数回(あぶ)るだけだ。


 オークの肉は沢山あるのでガンガン焼いていった。


 最後にヤカンでお湯を沸かし紅茶を()れてアーツに差し出した。


 彼女はそのミニジョッキを受け取りながら、


 「何か、野営じゃないみたいだな」


 「そうか~、まぁ、人前では出せない物もあるんだよな」






 「アーツはいつも1人なのか?」


 シロをもふりながら聞いてみた。


 すると、アーツは下を向き枝を拾って地面を突つきながら、


 「ああ、今は1人だな。ちょっと前まで女ばかり3人でパーティーを組んでいたんだが、些細(ささい)なことが原因で解散してしまってな。今思えばどうしてあんなことで(・・・・・・・・・・)と思うのだがその時はどうにもならなかった……」


 主語がないようなそんな語り口だ。ホントに些細(ささい)なことだったのだろう。


 「なんだぁ、その仲間は死んでしまったのか?」


 「何を言ってる、死んではいないぞ! ただ何処(どこ)に居るのか分からないがな」


 ふ~ん、そうなのか……。


 「いいじゃないか。死んでないなら、また会えるさ。そして、何年経っていようが戻るんだよ自分たちの時間が。そして以前のように笑って話せるさ」 


 「……話せるだろうか?」


 アーツは自信なさげだ。俺は紅茶を飲み干しながら、


 「心配いらないよ。共に過ごした時間は無くなりはしないから……」


 「さて、一汗かいて寝るとするかな。今日の夜警(やけい)は必要ないからアーツもしっかり寝ろよ」


 「えっ、何でだ?」


 「シロが居るだけで(けもの)はもちろん、魔獣(まじゅう)も寄って来ないから。しかも朝まで結界を張っているしな」


 俺はそう答えるとバスターソードを持ち日課(にっか)である素振りを始めていた。



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script?guid=on挿絵(By みてみん)
プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押して。押して~!
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シロかわいい! と感じたら押してください。シロが喜びます。U•ɷ•)ฅ
挿絵(By みてみん)
作:管澤捻 さま (リンク有)
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