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19 クルーガー金貨

 俺は気に入ったバスタードソードをカウンターへ戻しガンツに話しかけた。


 「これが気に入りました」


 「ほほう、見る目は持っておるようじゃな。儂もそれがいいと思うぞ」


 「それで(いく)らで譲っていただけますか?」


 さてさて、如何(いか)ほどと言われるのか内心ヒヤヒヤである。


 「10万バースと言いたいところじゃがタミさんの知り合いでもあるし、95000バースでいいぞ」


 うぉー、5%も値引きしてくれたけど、それでもなかなかいいお値段。


 まぁそうだよな、日本刀でも一口100万、200万円はザラだったりするし。


 タミねーさん曰く、ガンツは名工ということだし、妥当(だとう)な金額なんだと思う。


 「今、お金の持ち合わせがありません。それでなんですが、ここって鍛冶工房ですよね。これを引き取ってもらうことは可能ですか?」


 俺は例の(ブツ) (ミスリルのインゴット) を手渡してみた。するとガンツはそれを見て固まっている。


 「こっ、こいつをどこで手に入れた!? どこじゃ!」


 「何処(どこ)と言われてもおいそれとは答えられませんがこの国ではありませんね。ここには先日来たばかりですので」


 「もしや、まだいくつか持っていたりするのか? 持っているなら儂に売ってくれ。頼む!」


 ……う~ん?


 どうしてこうも必死なんだ?


 「よかったら、訳を聞かせてもらえますか」


 「おお、そうじゃったの。他所の国から来た者にはわかるまいの」


 「それがの、この国ではミスリルが出なくなって久しいんじゃ。近年では外国から(わず)かしか入って来ん。それにこのクラス (純度) のミスリルなんぞ儂でも数回しか見たことがない。だから持っておるのなら譲ってくれんか。商人に渡ってしもうたら儂らでは到底手が出せんのじゃ」


 そのように、切実に(うった)えてくるのであった。






 なるほど、欲しくても手に入らないのか。確かに一番必要としているのは鍛冶職人なのかもしれない。


 それに、もともと売るつもりだったし。これも何かの(えん)というやつだよな。


 よし、いいだろう。ここで(いく)つか売ってみるか。


 「同じものがあと2つあります。ただ、俺の名前を出してもらっては困りますよ。そうすることによって誰に迷惑が掛かるかはわかりますよね?」


 『タミさんにも迷惑が掛かるぞ』と少し(おど)してみると、ガンツはコクコクと頭を振っている。


 俺はさも(ふところ)から出しているように見せかけ、インベントリーからミスリルを2つ取りだした。


 ガンツは再びカウンターの奥へ引っ込むと、今回はすぐに戻ってきた。


 手には立派な革袋(かわぶくろ)が握られている。


 そして、その革袋の中から取り出したものは、


 直径が8㎝程の大きな金のメダル? 


 鑑定を発動すると、”クルーガー金貨” と出た。


 そのクルーガー金貨が4枚。


 「これで何とか頼む」


 「バスターソード (片手半剣) の代金はどうなりましたか?」


 「もちろん、それも含んだ値段じゃ」


 「この国ではそれ程の価値があるんじゃ。知らんことじゃろうが、その(かたまり)一つで普通のミスリル合金ソードが20本は打てる。ほんの少量混ぜるだけで金属の硬度が増し切れ味が格段に上がるんじゃ。魔法剣にするには配合の比率がだいぶ上がるがそれでも5本は打てる。とにかく貴重なんじゃ」


 「そうですか。それなら、また手に入るようなことがあれば真っ先にガンツさんのもとへに届けますよ」


 クルーガー金貨が入った革袋を(ふところ)に納める。


 そしてバスタードソードは、(さや)(つか)を両手で持ち押し頂くようにして受け取った。


 「ガンツとそのまま呼んでくれ。儂もゲンと呼ぶことにする。おぬしはなかなか面白い奴じゃな。その物腰(ものごし)立ち居振る舞(たちいふるま)いも とても若者とは思えんわい」


 そう言って豪快に笑いながらバシバシと肩を叩かれた。――普通に痛い。


 ガンツの店をあとにし、(さや)に入ったバスタードソードを左手に持って宿屋へと向かう。


 なんかもう、この後の買い物なんてどうでもよくなったな。


 ただただ、無性(むしょう)に嬉しくってワクワクするのだ。






 帰り道の途中、再びタミねーさんの八百屋へ寄ることにした。お礼が言いたかったのだ。


 「はい、いらっしゃい!」


 振り向きざまにタミねーさんが声を掛けてくる。


 お客さんだと思ったんだねぇ。俺がニコニコして、


 「こんにちは! 今戻りました」


 そして購入したバスタードソードを(かか)げて見せる。


 「なーんだ、あんたかい。しかし、本当にガンツに認められるなんてねぇ」


 などと今更のように言ってくる。――失礼な!


 でも、つかみ(・・・)のところはタミねーさんだったんですよねぇ。


 「いやいや、本当にタミねーさんのお陰ですよ!」


 「かぁー。そういうおべっかはいらないから、しっかり野菜買っていきな」


 そう言ってならんだ商品を指差してくる。


 俺は感謝の意を込め、くだものを中心に葉野菜なんかもしっかりと買い込んだ。


 そして帰りに、


 「また、おいでよ!」


 とリンガをひとつ投げ渡してきた。――プラムだけど。


 『あ~、何か良いよなぁ。こういうやり取り』


 そんなことを思いながら俺たちは宿屋に足を向けた。


 つき合ってくれたシロには、帰る途中にあった乾物屋(かんぶつや)露店(ろてん)でたくさんの干し肉を買ってあげた。


 美味しい干し肉にありつけて、シロもご満悦(まんえつ)の様子である。






 (ほど)なくして俺たちは宿屋まで帰ってきた。1階食堂のテーブル席にはまだ誰もいない。


 夕食の時間まではまだ少しあったので、宿の人に許可をもらって裏庭で剣を振ってみることにした。


 剣技についてはずぶの素人なのだが、高校まで剣道をやっていたので素振(すぶり)りぐらいはなんとかできる。


 たしか、ラノベ小説には『剣道とは違い剣先はしっかり足元まで振り下ろす』とかなんとか書いてあったような気がする。


 (しば)し何も考えることなく素振りを行なった。


 身体頑強(しんたいがんきょう)とレベルアップのお陰か、結構重たい剣なのだがわりと楽に振ることができた。


 剣道の竹刀とは違って、しっかり刃筋を立てないと剣は斬れない。


 慣れてないので、これがなかなかに難しいのだ。


 刃筋が立つことを意識して、ゆっくりと200回程振り抜いた。


 剣を(さや)(おさ)める。この素振りぐらいは毎日やろうと心に決めた。


 井戸で顔を洗って部屋にもどる。


 ベッドに腰掛け水筒の水を飲む。フライパンに水を入れシロの前にも置いてやる。


 そして、本日手にしたクルーガー金貨。


 それを1枚インベントリーから取りだし、手に持ってしげしげと(なが)めてみた。


 ずしっとくる重さの大金貨。これは凄いなぁ!


  存在感が半端ない。ついつい顔がニヤけてしまう。


 表には羽をひろげた一頭の竜 (ドラゴン) 、裏には王国の紋章(もんしょう)だろうか。


 ハァー、いつまで見ても飽きないなぁ。今なら『いいね』100回は押しそうだ。


 それにしたって、こっちの純ミスリルの塊 (インゴット) 。


 3つで約500,000バースになるとは恐れ入った。


 うーん、これは女神さまに感謝だな。ユカリーナさま本当にありがとう!



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script?guid=on挿絵(By みてみん)
プチ プチ(。・・)σ|ω・`)ノ おっ押して。押して~!
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