18 武器屋
ここまでの道中、特にトラブルもなく俺たちはマギ村まで来ることができた。
モンソロの町はもうすぐそこだ。
今、宿屋におけるカルチャーショックを受けていた俺だが何とか気を取りなおして村の中を見まわす。
確かに賑わっているよなぁ。子供たちもあちらこちらにいてすごく賑やかだ。
食べ物がいいのか皆まるまるって…………いや、あれって筋肉だろ。
んん、発育が良すぎて髭まではえて…………はえるかー!
だよな、ドワーフだ。ドワーフがいる。
――上がってきたぁ!
いやいや落ち着こう。シロが不思議そうに俺を見ている。
まずは宿の手続きからだよな。玄関口のドアを通り宿に入った。
そして、シロも一緒で大丈夫なのか確認を取る。
室内や調度品を傷つけなければOK!と了承してもらえた。
宿代の方は朝夕2食付きで400バースだった。ロウソクと燭台も当然借りておく。
そして、ここの宿では裏庭に井戸があり自由に使えるそうだ。
「それじゃあ皆さん夕食の時間にまたお会いしましょう」
マクベさんの言葉でとりあえず解散になった。
まずはお部屋のチェックだ。……まあ普通かな。ベッドに木製のコートハンガー、椅子、扉のないクローゼット。
そんな感じだ。荷物はインベントリーに収納しておく。
よし、行こう! 俺はシロを連れて宿屋をでた。
目的は武器屋。次に武器屋。さらに武器屋だ。後はおまけで古着屋と防具屋にも行ってみよう。
通りの端をあまりキョロキョロせずに目だけで確認していく。
シロはいつものように前に出ず右横にピタリとくっついている。――護衛なので。
可愛い上に頭も良いのだ。
通りを隈なく見て回った結果、3軒の武器屋が見つかった。
防具屋は見当たらない。まあ、看板が出ていないだけかもしれないがそれはそれで仕方ない。
さてさて、どこの店が良いのやら……。
こんなことならマクベさんに聞いておけばよかったなぁ。
まぁ、今更ではあるが。
しかし、うう~ん……そうだ! 村のどこかに串焼き屋があるんじゃないのか?
串焼き屋といえば情報通のはずだ。串焼き屋あるよな異世界なんだし。
そして、金を払う時には銀貨を親指でピンッ弾いて「釣りはいらねーよ」ってかっこよく渡すんだ!
いかんいかん、またいつもの癖が……。まずは串焼き屋を探してみよう。
そうして、村の中をさんざん歩きまわったのだが串焼き屋は1軒もなかった。――残念。
また、町での楽しみにとっておこう。
仕方がないので俺は近くの八百屋に入った。
しかも店番をしていたのは武器のことなんてわからなそうなおばちゃん。
「はい、いらっしゃい! 何をお求めで?」
おばちゃんは元気いっぱいだ。
「え~と、じゃあ果物って今何が美味しいんですか?」
そう聞いた俺におばちゃんが一言、
「今の時期だったらリンガかねぇ?」
おおっ、リンガ! 知ってる。あのエ○リアたんと嬉し恥ずかし……。
いやいやいや、それってスモモですよねぇ。――スモモも好きだけど。
「じゃあそれ10個ちょうだい!」
何かしらないけど、おばちゃんが発する不思議なテンションに引っぱられてしまっている。
「はいよ! まいど。リンガ10個で50バースね。お兄ちゃんかっこいいから2個おまけだよ!」
ホント、このおばちゃん元気がいいな。銀貨1枚を手渡し、大銅貨5枚をおつりで受けとる。
さてと帰るとしますか……。って違うだろ! スモモを買いにきたわけではない。
「ねぇ、おねーさん。聞きたいことがあるんだけど?」
「やだよー、こんなおばちゃんつかまえてお嬢さんなんて。で、何が聞きたいんだい? スリーサイズはひみつだよ」
さすがは商売人、うまく切りかえしてくるなぁ。――喜んでるみたいだけど。
「この村で武器を探しているんだけど。どこのお店がおすすめ?」
「武器ねぇ、得物は何を使うんだい?」
「バスタードソード (片手半剣) とか、あと短槍なんかもいいかなぁなんて」
「じゃあガンツのところだね。ドワーフの名工だよ」
「あの~、ドワーフって気難しいんじゃ~。いきなり行って大丈夫ですかねぇ?」
「なーに弱気なこと言ってるんだい! でもそうだね~、じゃあ『八百屋のタミねーさん』からの紹介だと言っておやり。それで大丈夫だとおもうから」
そして店の場所を教えてもらい、やって来ました『ガンツ武器工房』
何かしら名前からしてかっこいい。
ひとまず深呼吸、す~~~は~~~。いざ参る!
店の扉をあけ、
「すいませーん」
すると背の低いガチムチおやじ (年齢不詳) が店の奥から出てきた。
「誰じゃ、謝っているのは。お前か、なんの用だ?」
「あのう、武器を見せてもらいたいのですが」
すると背の低いガチムチおやじは、下から上へとこちらのなりを見たあと、
「帰れ!」
ですよね~。一見客だし。
……仕方ない、
「じつは八百屋のタミねーさんからの紹介だったんですが、見せてもらえないようなので、また別のところを紹介してもらいますね」
そういって俺が踵を返そうとすると、
「ちょっとまて! うーん、タミさんの紹介でもあるし、少しなら見せてやらんこともないぞ」
と、見事な掌返しをしてきた。
タミねーさんっていったい何者? ガチムチおやじが冷や汗をかいてるよ。
シロも入れていいか聞くと問題ないらしい。
「それでボーズは何が見たいんじゃ」
そう言われ、あわてて名乗る。
「俺はゲンと言います。こっちは従魔のシロ。よろしくお願いします」
「おお、そうじゃの儂はガンツ。しがない鍛冶職人じゃ」
「バスタードソード(片手半剣)と短槍を見せてください」
ガンツは再び俺をじっと見たあとカウンターの奥へ消えていった。
そのまま暫く待っていると、ガンツは両手いっぱいに武器を抱えこちらに戻ってきた。
「今、手元にあるのはこんなもんじゃな。ゆっくり見ていってくれ」
そう言って、一品ずつカウンターの上に並べていく。
俺はその一振り一振りを手に取ってじっくり見ていった。
どれも素晴らしい出来だと思う。それに鑑定さんがいい仕事をしてくれるのだ。
だから、主に持った時の感じや振った時の重心などを見ていった。
そして、俺の感覚にマッチしたものが一振り見つかった。
刃渡り75㎝鋼鉄製のバスタードソード。
日本刀と違い、当てて押し切る感じの西洋剣は重心が中心に有った方がいい。
これなら、片手持ちの時も楽に振れるだろう。鑑定結果のグレードはB+でこのクラスでは最良だろう。
ただ、問題があるとするなら価格の方だな。――めっちゃ高そうだ。




