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102 俺とシロの物語 (終)

 朝食を取ったあとはみんなでデレクの町に転移する。


 子供たちには昨日と同じように指示を出していき、


 今日もお小遣いを渡そうと革の巾着袋(きんちゃくぶくろ)を出していると、横からナツに手を(つか)まれた。


 「そう毎日小遣いは要らないよ。腹が減ったら帰ってくればいいんだからね。あんたは子供を甘やかしすぎだよ!」


 「お、おう」


 ――怒られちゃった。


 すこし過保護すぎたかな。


 あとのことはナツさん(・・・・)にお任せします。


 アーツに会う(ため)、俺はシロを連れてモンソロの町へと転移(てんい)した。


 会う約束したのは昼からである。


 今日は時間があるので、前から寄ろうと思っていたシベア防具(ぼうぐ)店に顔を出した。


 「おぉ~久々じゃん。やってる~」 


 相変わらずのモヒカンであるが、馴染(なじ)みというのは嬉しいもんだね。


 ここへ来たのはワイバーンの(なめ)(がわ)を卸すためである。


 取り()えずは1頭分を出してみる。


 モヒカンはその革をマジマジと見て、


 「これは、また見事な(なめ)し方だなぁ。捨てるところがほとんどない。これなら金貨2枚で買い取るぜ。どうだ!」 


 俺が(うなず)くと、モヒカンはカウンターから金貨2枚を取り出し渡してきた。


 職人の腕が(うず)くのだろうか? 


 ワイバーンの革を手にとり、何やらニヤニヤしているモヒカン。


 ――気持ち悪りーぞ、世紀末!


 「これは今まで世話になってるからサービスな!」


 そう言って、カウンターへもう1頭分をドスンと置いた。


 「はぁ――――――っ!?」


 モヒカンが呆気(あっけ)にとられている(すき)に、


 「じゃあ、また来るから!」 


 シベア防具店をあとにした。






 時間には少し早いが、俺たちは冒険者ギルドへ向うことにした。


 するとギルド前には(すで)にアーツが待っているようだ。


 (デカいから、遠くからでもすぐに分かるなぁ)


 すれ違う冒険者たちから声をかけられると、気軽に手をあげて答えている。


 デカいだけではなく、人気もあるんだよな。


 (人がいいからねぇ)


 そんなアーツに声を掛け、近くの食堂へ一緒に入った。


 まだお昼前ということもあり、店内に人はそれほど多くない。


 看板に出ているランチを3つ頼み、一つはこれにと、シロ用のフライパンを差し出した。


 注文を入れて待つことしばし。


 出てきたのは、肉ともやしの炒め物(いためもの)に黒パンとスープが付いたごく一般的なランチメニューだ。


 「ちょっと待ってくれ!」


 運ばれてきた料理に手をつけようとしていたアーツを止める。


 俺は(ふところ)から胡椒(こしょう)の入った容器を取り出し、スプーンですくって炒め物とスープにパラパラとかけてやった。


 怪訝(けげん)な表情をしているアーツ。


 俺は何事もなかったかのように(てのひら)を上にして、


 「どうぞ、食べてみて」


 料理を食べるように(うなが)した。


 「…………?」


 アーツはその料理をひと口、ふた口と食べて目を大きく見開いている。


 ――どうやら(うま)かったようだ。


 それからは会話をするのも、もどかしそうに料理を口に運んでいた。


 こうなってしまっては致し方がない。先に食事を片付けますかね。






 食後に紅茶を頼んで、落ち着いたところで今回の件を切り出した。


 デレクの孤児院(こじいん)へ移すスラムの子供たちの件である。


 アーツも興味を示し、うんうんと頷きながら俺の話を最後まで聞いてくれた。


 「そうか孤児院(こじいん)か。さらには自活(じかつ)の道まで。……素晴らしい。是非(ぜひ)私にも手伝わせてくれ!」


 俺の計画には大賛成。支援も約束してくれた。


 それから……、


 「毎年のことなんだが、春を迎えるまでに大体半分になるんだ……。無力なんだ……」


 アーツは寂し気(さみしげ)に そう(つぶや)いていた。


 ………………


 お迎えにくるのは8日後。


 それまでに、なるべく多くの子供たちを説得するようにお願いしておいた。


 また近いうちに看板を立てにくるからと、その場は別れた。






 子供たちの受け入れ態勢(たいせい)も万全に整え、お迎えする日がやってきた。


 こちらデレクも現地のモンソロも天候は良好、この寒さ以外は問題ない。


 馬車も5両準備してもらったし、走らせる経路(けいろ)も確認済みだ。


 ――よし、行こう!


 現地ではシスターマヤをはじめ、アーツ達がスタンバっている。


 例の炊き出し広場に子供たちを集めてくれているはずだ。


 俺たちは誰も居ないことを確認。


 モンソロの北門を出たところすぐの林に馬車5両を転移させた。


 馭者(ぎょしゃ)は熊人族のみなさんが務めているので(あわ)てたりする者もいない。


 あとは敏速(びんそく)に行動し、スラムの子供たちを運んでもらうだけだ。


 ………………

 …………

 ……


 子供たちを乗せた最後の馬車が北門を(くぐ)り抜ける。


 事情を知っている衛兵さんが子供たちに手を振っていた。


 街道を少し進んだのち、決められていた林の中へと入り転移する。


 借りていた5両の馬車は全てが無事にデレクの町まで戻ってきた。


 教会前に停車した馬車からは子供たちが元気よく降りてくる。


 今回、保護されたのは1歳~10歳までの子供が43人。


 子供についてきた親が8人。頑張って働こうという意欲のある大人が14人であった。


 先ずは全員に浄化(じょうか)を掛けたあと、孤児院の建物に入り食堂へと案内する。


 準備していた肉と豆が入ったスープを出していくと、待ちきれない様子の子供たちはがっつくように食べていく。


 次第にお腹が満たされていくと、緊張(きんちょう)していた子供たちの表情も和らいできたように見える。






 次はお風呂だな。


 よれよれの服を引っ剥(ひっぱ)がし、順番に洗い場へ送り込んでいく。


 身体を一通り洗って湯舟(ゆぶね)()からせていくのだが、


 ここで病気やケガのチェックも同時におこなっていき、ヒール (治療魔法) を掛けていった。


 (やはり皮膚病(ひふびょう)の子が多いなぁ)


 掻き毟(かきむし)って悪化している子も何人かいる。


 お尻なんかは(ひど)いものだ。トイレの葉っぱすら買えないからね。


 中には全身(ぜんしん)(アザ)だらけの子もいた。


 どうしたの? と聞いてみたら……、


 いつも水飲み場に居る片腕(かたうで)のおやじに、細い木の棒で(たた)かれていたそうだ。


 「ぼく、なにも悪いことしてないのに……」


 その子はぼやくように言っていた。


 いくら理不尽(りふじん)な事をされても、子供ではどうにもできないよな。


 やれやれと思いながらも治療(ちりょう)は続けていく。


 そうかと思うと、


 「おにいちゃん、ありがとう!」


 と元気に言ってくれる子もいるし。


 ――頑張りまっせぇ。






 洗い場にぞろぞろと子供が流れてくる。


 これで何回目だぁ? さすがに疲れてきた。


 まぁ子供はこれで終わりかな。


 (はぁ~? 大人もやんの~)


 大人は知らん、勝手に入ってくれ。


 病気とケガは自己申告な!


 治してはやるけど、特別あつかいは今回限りだ。


 あれっ、シロはどこ行った?


 「…………」


 あのやろー。湯舟でぷかぷか浮いてやがる。


 いい気なもんだな。


 ちょっとはお手伝いしろ(・・)よ!  シロだけに……






 さて、俺もそろそろ戻るとしようか。


 あとはシスターマヤと熊人族(くまびとぞく)のお手伝いさんに(まか)せておけば大丈夫だろう。


 俺はシロを連れてナツのログハウスへ帰ってきた。


 もう、みんな集合している。


 お茶を片手に談笑(だんしょう)していたようだ。


 子供たちの顔はイキイキとして、ナツは(ほが)らかに笑っているのだ。


 充実(じゅうじつ)した日が送れたのだろう。


 クマ親子と別れた俺たちは王都のツーハイム邸に戻ってきた。


 ふぅ~~~、何とかなったな。


 それもこれも、皆の協力(きょうりょく)があったからこそなんだよなぁ。


 ………………


 ぺしぺし! ぺしぺし!


 『いく、はやく、たのしい、おきる、おいしい、あさ』


 うっ、ううん、朝か。 


 あれれっ? きのう夕食を取ったあとは…………?


 ――よく覚えてない。


 おそらくは一気に疲れが出たんだろうな。主に気疲れがね。


 ぺしぺし! ぺしぺし!


 はいはいはいはい、起きます、起きますから~。


 (ひたい)をぺしぺしするのはやめて頂けますかねぇ、シロさんや。


 横で寝ていたメアリーも起こし、着替(きが)えを済ませて部屋の扉を開ける。


 「「おはようございます。ゲン様」」


 廊下(ろうか)で待機していたフウガとキロから声がかかる。


 二人して片膝(かたひざ)を突きこうべを垂れている。


 まあ、上にはワイバーンのローブを羽織(はお)っているので寒くはないだろうが、


 毎日こうして、俺が出て来るのを待っているのだ。


 ――忠犬(ちゅうけん)か! いや狼なのだが……。






 廊下(ろうか)に出ると、俺は赤いマントを羽織(はお)った。


 背中にはツーハイムの紋章(もんしょう)が入っている。


 ――かっこいい! 


 かっこはいいけど、ちょっと目立つんだよなぁ。


 何故こんな事になっているのかと言うと、原因はお隣のこの方。


 真っ赤なサラマンダー・ローブを身に(まと)っていらっしゃるメアリー嬢。


 季節は冬本番を迎え、最近は朝の冷え込みもぐっと(きび)しくなってきた。


 そこで豊富(ほうふ)に有ったワイバーンの革を使い、


 デレク (ダンジョン) に頼んで俺と周りの者にローブを作ることにしたのだ。


 そして出来あがったのはチャコールグレーのワイバーン・ローブ。


 なかなかシックな一品である。


 さっそく、そのローブを羽織り散歩(さんぽ)に出たのだが……、


 「メアリーもそれがいい!」


 メアリー嬢が駄々をこねだしたのだ。


 いやいやいや、サラマンダーのローブの方が絶対良いに決まってるから。


 懸命(けんめい)に説得するのだが、プルプルと顔を横に振るばかり。


 そうして困ってしまった俺は、


 『じゃあ、お揃いでサラマンダーのローブを作るか』


 とも思ったのだが、


 悪戯心(いたずらごころ)も手伝って ”たっ○・みーさん” ()りの赤いマントにしてしまったのだ。


 「えへへへへ、ゲンパパと一緒だぁ!」


 メアリーは笑顔で納得(なっとく)してくれた。


 「「「ゲンパパ。かっこいいよぉ!」」」


 その言葉を子供たちから聞けただけでも作った甲斐(かい)があったというものだ。


 正義のヒーローがつけるような真紅のマント。


 背中には、フェンリルであるシロを(かたど)ったツーハイム家の紋章(もんしょう)が入っている。


 (このマントに()じない生き方をしていきたいものだね)






 みんなと一緒にデレクの町へ転移する。


 今朝は代官屋敷(だいかんやしき)の前に出てみた。


 「「「わぁ――――っ!」」」


 迷宮入口より上方にあるここからは、デレクの町が一望(いちぼう)できるのだ。


 朝焼けに染まる街並みを見下ろしながら……。


 この町は走り出したばかり。


 やらなくてはならない事も、やってみたい事も山積(やまず)みだ。


 だからといって、(あわ)てることはないよな。


 じっくりと腰を()えて地道にやっていこう。


 町と共に大きくなっていけばいいのだし、俺はそうあるべきだと想うのだ。





 俺がシロから(もら)った第二の人生は、まだ始まったばかり。


 だから、まだまだ続いていく俺とシロの物語。



 この話は完結しました。

 最後までお付きあい頂きまして、ありがとうございます。



 お次は10年後のスタート! 「ええ、ココは何処なの!?」


 【 俺とシロ(second)】 どうぞ、お楽しみください。


 マネキネコ。φ(ΦωΦ )

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― 新着の感想 ―
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[良い点] 楽しく一緒に旅をしているような感覚で、読ませていただきました♪ 途中のタイトル回収、とても好きです。 これから、まだまだ旅は続くのですね(*´∇`*) ゆっくりですが、またそちらも読ませて…
[良い点] すごく読みやすい文体でした。 特徴的な句点の使い方も面白かったです。 [気になる点] 完結?と、思ったらまだまだ続くのですね。 この話はどこまで続いていくのだろう。クドーのように語り継がれ…
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