第9話 ユイルという幼馴染(3/3)
ナミは心の中で、期待していた。
「彼はきっと『ルピア』から戻って、『シュキラ』に残した自分と結婚してくれるはずだ」、と。どんなに非行に走ろうと、いつか自分の元に帰って来てくれると思っていたのだ。
ナミは彼と結婚した後のことを想像した。彼のキスはどんなものだろうか。彼と一緒のベッドに寝るのはどんな感じなのだろう。朝ご飯はきっと彼の好きなものを毎日一生懸命作るに違いない。子供はさぞかし彼に似て美しいに決まっている。
そんな、幸せで美しい家庭をナミは想像した。
だから、自分が今惨めであっても、きっと未来はナミが理想とするものが待っている。そう思ったからこそ、彼と同じ高等教育学校(高校)を卒業し、針子として毎日深夜まで働き詰めでも頑張れた。彼がいつか『シュキラ』に戻ったら、私はきっと幸せになれる、と。
だが、現実はそうではなかった。
ナミは、彼からの手紙の内容を知ってから、体調を崩した。連日の無理な労働が原因であることは明白だった。ナミは「これ以上は無理だ」と思い、針子の仕事を辞めたのである。
療養している最中に、現在の『スイピー』のお店で働き手を探していたことを知り、そこで働くことにした。彼がいなくなってしまった今、とりあえず無理に働かなくて済むところなら正直どこでも良かった。だが、思ったよりも居心地がよく、いつの間にか6年の歳月が過ぎていた。