表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼は彼女を選ばない  作者: 彩霞
第1章 彼の息子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/94

第39話 ジェシカ・ロッジ

「はあ、はあ……」

 ナミは投げた食材を見つめ荒く息をする。そのうちに、だんだん頭が冷えてくるのを感じる。

(何やってるんだろう、私……)

 食材には何の罪はないのに、ナミの行き場のない苛立ちを請け負うことになってしまった。廊下に散らばった食材が虚しく見える。

「……」

 ナミは力が抜けたように玄関先に座り込むと、ため息をついた。

(もう、何もしたくないな……)

 まずはこの廊下を片付けなければならないが、手を付けたくなかった。このままにしているわけにはいかないが、面倒に感じる。

 それからヤヒリ先生のところへ、ユイカを迎えに行かなくてはならない。ユイカは自分のことを待っているか分からなかったが、ヤヒリ先生との約束がある。だが、憂鬱だ。

「……行きたくないなあ」

 その時だった、半開きになっていたナミの玄関の扉から顔を覗かせた人がいた。

「ナミ?」

 ナミはのろのろと顔を上げる。するとそこには、小麦色に焼けた肌に、それに似合うような大きな花柄が書いてある丈の短いチュニックブラウスに、7分丈のジーンズをはいた、年上の女性が立っていた。

「あんた、どうしたの?」

 彼女はナミと彼女の部屋の廊下を交互に見た。まるで泥棒に入られたかのような有様である。

「何があったの?」

「ジェシカさん……」

 ナミは力なく呟いた。

 ジェシカ・ロッジ。

 それがこの女性の名だ。ナミの部屋から見て階段側に住んでいる隣人で、夫と子供2人と生活している。快活な女性で、いつも明るい。子供たちは彼女に似て人懐っこく、ナミとも友達だ。そして、ジェシカはナミにっとってはお姉さんのような存在で、困ったときはいつも相談に乗ってくれる。

 ジェシカは普段と様子が違うナミを見て、表情を引き締めながら部屋に入り彼女の傍にしゃがんだ。

「ナミ?」

「はい……」

「あんた、お腹でも空いているの?」

「……何でですか?」

「いや、こんなに食材あるから、相当お腹空いてるのかなって」

 ナミは廊下の食材を一瞥する。

 その時になって、ナミはお昼を取っていないことに気が付いた。だが、食欲はまるでない。そのため、力なく首を横に振った。

「そっか。まあ、そういう時もあるよね」

 するとジェシカはナミを抱き寄せる。そして何も聞かず背中をさすってくれた。

「……ジェシカさん」

「何?」

「さっき、うるさかったですよね……?」

 ジェシカはナミが何を言っているのか、すぐにピンときた。多分、先ほどした派手な物音だろう。

「物音のこと?」

 ナミはこくりと頷く。

 ジェシカはこの廊下の様子を見て、ナミが何をしたか想像がついたが、あえて明るい口調で言った。

「びっくりはしたよ。急に大きい音が聞こえたからね」

「すみません……」

「まあ、気を付けなよ。でも良かったね、サリナもケイも仕事で出かけてて」

 サリナは左隣に住んでいる女性で、ケイは真下に住んでいる男性だ。

 ナミはぼんやりと隣人と下に住む人のことを思い浮かべた。食材を投げたときは考えていなかったが、皆に迷惑なことを自分はしている。そう思ったのと同時に、彼らがいなくて良かったと心底安堵した。

「……はい」

「けど、何か理由があるんでしょ。ナミがこんな風になるのなんて、今まで見たことないもの。よっぽどのことがあったとしか思えない」

 ナミはジェシカに今日起こった出来事を話そうと思って口を開くが、すぐに閉じる。それを話すにはまずユイカのことを話さなくてはならないし、話をして彼女がどんな反応をするのかも怖かった。

(それに、あれはよっぽどのことだったのかな……)

 ナミが無知で、無責任だったから起こったことだと皆が責め立ているように感じる。そう考えると、ナミ自身はいちいち気にしていてはいけないことなのかもしれないとも思った。

「……」

 ナミが黙っているので、ジェシカは彼女に聞いた。

「言うと楽になることもあるけど、言いたくない?」

「今は、ちょっと……」

 ジェシカは何度か頷く。

「うん、分かった。でも、辛いときとか助けて欲しいときは言うんだよ」

「はい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ