第18話 幼馴染-1
ナミは丁寧に受話器を置くと、再びキッチンに立った。
(お弁当作らなくちゃ)
弁当を作ることはナミの日課だった。「スイピー」に働きに出る時は、お昼ご飯を必ず持って行くようにしているのだ。お店の近くには、いくつか飲食店もあるが、そこに毎日通い続けていたら家計の負担になってしまうので、彼女はできるだけ節約を心掛けていた。
「あ……、食材がない……」
しかし冷蔵庫を開けてみると、食材が少なくて作れるものがなかった。よく考えてみれば、昨夜も有り合わせのものでサンドイッチを作ったのだ。なくて当然だった。
(今日は、外食かな……)
ナミは流し台に腰をくっつけて体重を預けると、腕組みをして長くため息をついた。
(女の一人暮らしは、やっぱり簡単なことじゃないのかもね)
女性の社会進出は少しずつ進んではいたが、シュキラはルピアよりもかなり遅れている。ルピアでは、百貨店などの店員に女性が起用されているようだが、シュキラでは「女が化粧をして色々な男に媚を売って商売するのは醜いことだ」という風潮が強く、未だに店の前に女性が立つことがあまりいいものとして見られていない。それを考えると、ララが女性店主として店舗を持ち仕事をしているというのは凄いことだった。それにより、ナミの一人暮らしは支えられている。給与は多くはないが、針子の仕事を続けていたら絶対に一人暮らしなどできなかった。
(ユイカのこと、どうしよう……)
ユイカはいつまでここにいるのだろうか。
ナミにとってそれが心配だった。彼女としては、いつまでもユイカの面倒を見てあげたかった。そしてユイカがここにいれば、いつかユイルとも会えるだろうとも思った。しかし生活が問題である。ナミ一人でなら今まで通り何とかなる。しかし、ユイカを抱えて生活していけるだろうか。
(お母さんに、言った方がいいのかな……)
ナミはぼんやりと母親の姿を思い出すが、すぐさま首を横に振った。彼女に相談したら、ナミが求めているような答えは得られないだろう。
(とにかく、ララさんに相談しよう)
そう思った時、脱衣所の扉が開いてユイカがとことことリビングの方に戻って来た。