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彼は彼女を選ばない  作者: Yuri
第1章 彼の息子
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第15話 違和感(前編)

 ナミはアパートの階段をユイカと一緒に上がって部屋に戻ると、彼をテーブルにつかせ、朝食の準備に取り掛かった。とはいっても、昨夜作ったサンドイッチがあるので、それを冷蔵庫から取り出し、ユイカのために牛乳を温めるくらいしか、することはなかった。

 ナミはテーブルの上にそれらを用意すると、ユイカに「召し上がれ」と言った。

「大したものじゃないけどね」

 彼女が補足すると、ユイカは首を横に振り「そんなことないです」と言った。

「いただきます」

 彼は手を合わせてちゃんと挨拶をすると、ロールパンにスクランブルエッグが挟まった方を手に取り頬張った。

「美味しい?」

 すると、ユイカは縦に何度も振った。

「はい!」

「なら、よかった。本当は昨日の夜食べる予定だったんだけど、寝ちゃったからね」

 ナミは笑いながらそう言ったが、ユイカは急に怯えたような表情をする。

「ぼく、そういえば寝ちゃって……、ナミさんがサンドイッチ作るって言ってたのに……、あのごめんなさい!」

「……」

 ナミにとって、そんなことは謝ることでも何でもない。

 それなのに、大事おおごとのように謝る彼を見て、ナミは眉をひそめそうになる。だが、そんな顔をしたらきっとユイカはより気にしてしまうだろう。彼女は穏やかな笑みを浮かべ、彼のせいでこうなったのではないことをさりげなく伝える。

「眠かったんだから仕方ないわ。私も寝てしまったし。それに今日の朝食になったのだから、何も問題はないのよ」

「そうですか……」

 ユイカはほっとした表情を浮かべると、黙々と食事の続きを始めるのだった。

「……」

 ナミはユイカが食べている様子を時折眺めつつ、自分も朝食を食べていたが、どうも彼の言動が腑に落ちなかった。

 年齢の割にはしつけがかなり行き届いているのは、ユイルやその妻がきっとしっかりと育てたのだろうと推察する。しかし、ユイカが時折見せる怯えたような表情や、自分が心配されることに対して無関心なのは変なことのように思えるのだ。

(さっきだって、『心配したんだよ』って言ったのに、きょとんとしているというか、『どういうことですか?』って頭に疑問符が浮かんでいるような顔をしてた…)

 ユイカのこの態度の奥に、何かある。

 そう思いつつも、それ以上考えたくない自分がいた。

(考えすぎよ、ね……?)

 ナミは被りを振り、考えるのを止めた。

 ユイカはいつの間にか、用意していたサンドイッチをぺろりと平らげていた。

「ごちそうさまでした」

「お腹いっぱいになった?」

「はい」

 ユイカがにこっと笑ったので、ナミはほっとする。彼女は食後の片づけをしてから、紅茶を淹れるとユイカに尋ねた。

「そういえば、どうして今朝は外にいたの?」

 するとユイカはミルクが入ったカップを覗きながら答えた。

「お父さんが、来るんじゃないかと思って……」

 ナミは驚いて、少し前のめりに尋ねた。

「ユイルが?ここに来るって?」

「はい」

「そう言えば、ユイカはどうして私の住んでいる所を知っていたの?それに、ここまでは一人で来たの?」

 すると、ユイカは首を横に振った。

「ううん、一人じゃありません。お父さんと来ました」

「えっ……」

 ナミは、ゆっくりと額に手を当てた。

 ユイカはここまで父親と来た、と言う。ということは、ここに、ユイカが一人になって置いて行かれる前まで、ユイルがいたということだ。

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