第1話 廃れた町
「シュキラ」という町は、とても穏やかなところだ。
隣街にその町の何十倍もの人が住み、夜も眠らないと言われている、「ルピア」という街があるとは思えないほど穏やかだ。その理由は色々あるだろうが、中でも「シュキラ」と「ルピア」の間にある、大きな湖があることが一番の理由であると、人々は口を揃えて言う。
その湖の名は、「セレ・ドヴァイア・ミカラスカ」。
古い言葉で、「夜を閉じ込めている水たまり」という意味である。大きいだけでなく水深が深いため、水底まで太陽の光が届かないことから、その名が付けられた。
そして、「シュキラ」の町の人は、船を使って「セレ・ドヴァイア・ミカラスカ」を渡らなければ、隣街の「ルピア」には行けない。逆もしかりである。今は湖の周りの道が舗装され、自動車という便利な道具が生み出されたので、多少は行き来が楽になったが、それはお金持ちの話であって、一般市民はやはり変わらず、1時間ほどかけて船で湖を渡っている。
しかし近頃は、若者が「ルピア」に行く頻度は確実に多くなっていた。通行料金は依然として高いものの、「ルピア」には「シュキラ」にないものがあるらしい。
それ故に、「シュキラ」に住む少年少女たちは口を揃えて、地元を「廃れた町」と言っていたが、ナミ・クララシカも同感だった。